“末摘花" ヒカルが地球にいたころ……(5) (ファミ通文庫)

著者 :
  • エンターブレイン (2012年8月30日発売)
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感想 : 30
4

末摘花は、源氏物語の中でも異色の女君。
お顔もボディも残念。アタマも良くなくて。

どっちかって言うと、笑いものにされるのが仕事のヒロイン。

源氏が栄華を極めた時に、六条院に引き取られ、夫人の一人
として世話を受けますが、世の中を渡る才覚も美しさもない
彼女に同情しての待遇でした。

ただ、源氏が一つだけ認めた美点。
それは純真であること。

若さと美貌と驕りにまかせ、恋のやり取りの気まぐれに
関係を持った彼女を、政変にあった源氏は忘れて放置。

普通なら、そこで絶望したり恨んだりするのに、
彼女は源氏をひたすら信じて待っています。

少し知恵の回る女なら、諦めて去っていたでしょうに
必ずお逢いしに参りますという言葉を信じ
朽ち果てた陋屋で男を待つほどの純情。

愚かではありますが、他の誰も出来ない愛し方に光源氏は
うたれて、末摘花の保護者となりました。

これは本家の源氏のお話。
ではこのシリーズでは?

ネットで可愛い女の子を演じていたリアルにお顔が残念な
女の子の、心の中にある可愛さを愛したヒカル。

「ネットを越えて会う」という行動で、ヒロインのべにちゃんに
君はかわいいと伝えたかったんだとか。

だけど、肝心のべにちゃんのお話よりも、この巻は
是光くんと式部さんの仲が進展することに重きを
置いてる気がして、お約束の「救い」は薄くなっています。

サフランことべにちゃん。
次々現れる美少女に、すっかり打ちのめされて。
こころはどんなに可憐でも、可愛く装うことさえ
自分に許せない「ぶす」っていう鎖。

私はそんなに簡単には、解けないと思うのです。
まして、式部さんを本命に思い定めた是光くんでは。

美少女たちは、ああだこうだいったって自信があります。
だけどべにちゃんにはそれはありません。
他の女の子に、こんなに真剣に恋してる男の子が伝言
ちょっとしたくらいで、どうにかなるとは思えません。

お話的オトシどころとしては、こころの美しさや知性は
会わなくても本当にヒカルの心を掴んでいたとするしか
ないのですけれど。

本当に好きな子が出来たなら、もうそういう手助けは
キツイんじゃない?って、少し胸が冷えました。

本家の末摘花と違ってべにちゃんは、
バカではありません。

人気ブロガーになったり
植物を育てられるほどには知的です。

だから
自分の容姿に対しての客観的な認識も
ちゃんと持っています。

そんな女の子が、あんなあっさりあのくらいで落ち着く?

私はむしろ、彼女にとって良かったのは、これを機に
構わない放題だった外見を、バカにされないために
「ぶす」だからこそ
マシに見せるよう頑張るだろうって事の方でした。

これからもきっと彼女はバカにされます。
いくらいいお友達が出来たとしても。

自分の容姿に傷つく日が何度もあるはず。
だけど、泣きながらでも、負けないでいて欲しい。

綺麗じゃないからって。

すだれアタマじゃ駄目って気がつくでしょ?
急に美女にはなれっこないから、
自分なりによくなろうとするでしょ?

なんて言われようが
明日もその姿で生きるしかないなら。

ほったらかすよりマシにしてやれるのは
自分だけだって気がつくはず。

そして
マシになった自分をほんの少し好きになったら。

知的なところや優しさを、これは本物。
ってもう一度自信持ってほしいな、って思います。

その時初めて彼女は、昨日よりいい自分を
自分で手に入れるから。

べにちゃん。

いつか、あなたが顔を上げて
すきなひとの目を見てくれますように。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ライトノベル
感想投稿日 : 2014年7月14日
読了日 : 2014年7月14日
本棚登録日 : 2014年7月13日

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