ダブル・ジョーカー

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2009年8月25日発売)
3.83
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本棚登録 : 3311
感想 : 560
3

映画で人気も出ただろうし、借りにくくなりかなと予想して
シリーズの3冊目までは借りていた。これが2冊め。

1冊目は期待しすぎて

「なんだ。もっと面白いのかと思ったのに。」

とぼやいたけれど、2冊めになってやっとこれならと思う。
著者は第二次大戦中の、海外のほうが筆を進めるのには
楽なのだろうか。

この本の冒頭の伊豆を舞台にした話に比べ
海外を舞台にしたほうがグッと面白くなっている。

確かに、もうちょっとそれらしい描き込み方で舞台を描き
脇役を活かして欲しいという恨みは残る。

数々の海外ミステリや
例えば「深夜特急」など既読の読者なら。

でも、ステレオタイプの舞台も、これはこれでいい。

例えば戦時中のハノイの懶惰で何かが暗躍していそうな
感じを描くのに、私達が、こういう感じだろう、と一番想像
しそうな描写をする。

ナチスの軍人・スパイはこうだろうという描写をする。

私達は自分の想像の追いつく埒の中で、セットのようだと
文句を言いながら、「安心して」起きている事件を眺め
面白がっていられる。

私達は作中の事件の傍観者であり、観察者なのだ。

スパイ行為そのものが上手く行かなかったように見える。

D機関に踊らされ、あるいは捕縛される側から事件を
垣間見る。

過去を暴き立てられ、主人公側が一枚上で良かったと
胸を撫で下ろす。

そして…遂にD機関員といえども狩られてしまった男の姿も
描かれる。

これら、1冊めに比べて、スパイ行為によって
一見なんでもないのに追い詰められていく様子は

明らかに「ひやり」と襟に一瞬冷たい手がかかった
緊迫感を増して私達に届けられる。

一見複雑そうな登場人物たちを、わかりやすく私達が
飲み込む。

そのために、ステレオタイプの『ああ知ってる」
という既視感を持った舞台を描いて、雰囲気に
簡単に誘いこんんでくる。

なんのために?

私達を

「既視感のある事件現場の片隅で、安全に守られながら」

「当事者でもあり傍観者でもあるもの」

として覗き見させる…。

登場人物をスパイさせ、自分の標的が「ひやり」とした手に
触れたのを追体験させるための仕掛けだとしたら。

ホントに秀逸。

え?そうじゃなかったら?

ううん。いいなと思うところはあるんです。
プロ作家の本だし。上手くなっていただきたい。

少なくとも最初の1冊めよかよほど面白かった。

結城中佐の過去の話は特にいいです。
もっと書けるだろとは思ったけど、あった方がいい。

少なくとも次も読むことにはなりました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 冒険小説・スパイ小説
感想投稿日 : 2015年3月4日
読了日 : 2015年3月4日
本棚登録日 : 2015年2月4日

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