みなさん、さようなら

著者 :
  • 幻冬舎 (2007年11月1日発売)
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本棚登録 : 331
感想 : 81
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「さようなら」は、「こんにちは」のはじまり。

何を考えているか分からない外部からの侵入者が、
小学校の卒業式に乗り込んできて主人公の目の前で
同級生を刺し殺した。

その事件をきっかけに、彼は団地に引きこもることを決める。
この物語の核心にあるのは、心を閉ざしたはずの彼が、
団地に住む同級生のことを逐次知りたがり、
すべてを把握したがるという性癖を持つことにあると思う。
何をしでかすか分からない他人が自分の周りから消えるよう、
とにかくどんなに細かい情報でも仕入れる。

バブルの前後、ポケベルやPHSをはじめ、
あらゆるところで技術革新が起き、
人間関係が劇的に変化した。

コミュニティ意識が強い団地を舞台にすることで、
この描写はさらに顕著に見える。
中盤以降では、団地から同級生が減っていくなかで、
本来近所関係の濃いはずの環境から人間関係が希薄化していく。
主人公・悟は、自分の知らない怖い外部世界に、
安住の地であるはずの団地が近づいていくことに焦りを感じ、
徐々に居場所を失っていく。

物語の最後、母親の死をきっかけに(?)、
彼は団地を出るという決意をする。
そして、この本のタイトル「みなさん、さようなら」。
このとき「みなさん」とは誰を指すのか?
僕は、これは彼自身のことなのだと感じた。
正確にいえば、彼の狭い世界の中で生き続けてきた、
同級生であり、ケーキ屋の師匠であり、最愛の恋人。

それは、物理的な「さようなら」である以上に、
関わりあう人々の、すべてを知らなければならないという、
強迫観念に縛り付けられてきた彼自身に対する別れ。
それは分かりやすくいうと、新たな門出。

それが良いことなのかどうかは、誰にも分からない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説_
感想投稿日 : 2013年1月28日
読了日 : 2013年1月27日
本棚登録日 : 2013年1月27日

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