百年前の日本語――書きことばが揺れた時代 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2012年9月21日発売)
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感想 : 37
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明治が日本語表記の「揺れ」の時代だったのではなく、それまでずっと揺れていた表記が明治以降に収束の方向に向かった。明治期までの日本語と現代の日本語で、表記の幅以外に本質的に異なるのは、漢語と和語の区別が曖昧になってきたこと。漢語が外来語として意識されなくなってきて和語の中に溶け込んでしまった。

教育の標準化による常用漢字表などの制定、新聞などの出版物によって不特定多数が読む文章が、表記法が統一されていく背景にあった。

古くは「手で書くように印刷する」もので、崩し字や続け字の活字まであった。それがいつしか「印刷するように手で書く」方向へ変わっていった。

振り仮名でもって和語、外来語に漢字を当てることで、非常に多様な表記(同語異表記・異語同表記)がされた。なるべく漢字で書きたいという欲求があった。
→日本語の音素の少なさによるか。平仮名ばかりでは読みにくいから。

「康煕辞典」。漢字の標準形。

唐音は主に江戸時代以降に中国から伝わってきた漢字の音で、白話(話し言葉)的な中国語の音。漢音、呉音とは区別されて、正統的な漢語の発音ではなかった。



ある漢語が、意味のつながりによりまた異なる漢語の表記に流用される。「基礎」と書いて「どだい(土台)」と読ませたり、「平生」と書いて「ふだん(普段)」と読ませたり。
→和語に漢語を当てるなら分かるが、もともと漢語であたものにわざわざ別の漢語を当てるとは、かなり不自然に感じられて面白い。が、著者は、漢語が和語化してきているのが分かるとするくらいで随分とあっさりとした解説。こういうところをもっと掘り下げてくれれば。

あとがきによると、細かい事実を丹念に拾い上げる「虫瞰」を旨としているそうで、それはなるほど納得。やたらな大風呂敷や声高な主張より、個人的にもそちらが好みである。しかし、もう少し考察面の踏み込みがあると楽しいかも。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年11月5日
読了日 : 2013年4月18日
本棚登録日 : 2018年11月5日

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