それでも、日本人は「戦争」を選んだ

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  • 朝日出版社 (2009年7月29日発売)
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中高生への特別講義を本にしたもの。また、この中高生たちがなんとも賢い。

まず戦争というものが持つ重み、政治的インパクトを確認している。大量の犠牲をともなう総力戦においては、国民を戦争へ向けて統合する国家目標や、犠牲者の弔いが必要になる(日比谷焼打事件が教科書で出てくる例か。本書でも満洲への執着の要因として日露戦争の犠牲があげられる)。さらに、戦争は国家間において、相手の国家の憲法(またはそれに類する大事な主権とか社会契約)への攻撃という形をとるとするルソーの説を紹介する。

第一次大戦参戦時に、英米から太平洋にまでは出ないように釘を刺されていた。これが野党に知られることによって、主権侵害であるとして国会での政争ネタになってしまう。のちの二十一か条要求などの対中政策において、この記憶が縛りになって譲歩がしにくくなる。民主主義ゆえに好戦的、強気な言論が好まれて、冷静な外交ができなくなってしまう。一方、アメリカでも終戦後にウィルソンの対日妥協が国会でたたかれて、それを知った日本側は衝撃を受ける。そもそも外交とは妥協であろうに。オープンな議論も時と内容によると言うことか。いまにも通じるだろう。

満洲事変時のリットン調査団については、中国よりだったとばかり思っていたが日本の経済的利益には帝国主義のお仲間諸国はけっこう配慮していたようだ。しかし日本の思惑との間にずれがあったために連盟脱退までつながっていってしまう。この段階ではどうにかできる余地が充分あったように読める。

陸軍、とくに皇道派が貧しい民衆の声を拾い上げていたとも。一定額以上の納税者にしか選挙権がないので政党は貧困層むけの政策には力が全然はいらない。兵隊にとられるよな貧しい農家層は軍に期待する。

海軍軍人である水野廣徳の日本には戦争をする資格がないとの議論。資源がないので、いくら局所戦で勝っても総力戦はできない。通商関係の維持に専念すべきと。当然この議論はまったく受け入れられなかったそうだが、先見性がある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年11月5日
読了日 : 2011年12月4日
本棚登録日 : 2018年11月5日

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