羅生門/鼻/芋粥/偸盗 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店 (2002年10月16日発売)
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感想 : 84
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約四半世紀ぶりの再読。芥川龍之介の巧さを改めて知る。一文が長すぎず、リズムがある。絵( 情景 )が浮かぶ。近代文学だが文章は意外と現代的。そして、物語の閉じ方が、スパっと切れ味がいい。
「 下人の行方は、誰も知らない。 」この終わりの一行、秀逸。かつて国語の教科書で読んだのが最初だと記憶。以来 今なお鮮やかに覚えている一節である。かくも印象的で鮮烈な一文、終幕、ペンの置き方、そうザラに無い。

「 禅智内供の鼻といえば、… 」の書き出しもイカしている。他者の幸福への妬み、人の心の残酷さ。そうしたことを、かくも鮮烈に抉る。初読の頃、子供乍らに胸を突かれた。短編乍ら、否、短編故に、鋭い太刀さばき。

そして「偸盗」は初読。中編ということもあり「 羅生門 」や「 鼻 」程の切れ味は無い。隻眼の長兄・太郎と美貌の弟・次郎。兄弟は共に盗賊の女首領・沙金に率いられ武家の屋敷を夜襲。だが女は長兄の討死を謀り、武家屋敷側に内通。結果偸盗らは屋敷で待ち伏せされ猛攻に遭う。その戦闘描写が巧い。この修羅場で兄弟は其々に、相手の討死を秘かに願う。だが、終盤兄は弟の窮地を救い、互いの兄弟愛を再確認する。滅法甘い落としであることよ。

「 芋粥 」は、風采の上がらぬ五位( 下級役人 )の男の話。ゴーゴリの「 外套 」を彷彿とさせる。男の夢は「 芋粥 」。当時「 芋粥 」は大変な美食だったらしい。五位はこの好物の「 芋粥 」をたらふく食べることをいつも夢見ている。ある日、その願いを叶えよう、という奇特な侍に出会う。五位は、美味なる芋粥を思う存分に食べるという生涯最大の夢が叶う…。しかし、それを目前にしたとき、五位は芋粥を食べる気が萎えてしまう。飽く程にたらふく食べたい、そう願い焦がれるうちが花だった… ということなのか。その、急激な心境変化が詳らかでなく、拍子抜けの感あり。
さて、京から越前へ「 芋粥 」を食べに向かう一昼夜の騎行。野狐の遣いも登場。不思議な道行きで幻想のようでもある。

一方、以下の一文に出逢えたのは収穫。

「 人間は、時として、充されるか、充されないかわからない欲望のために、一生を捧げてしまう。その愚をわらう者は、畢竟、人生に対する路傍の人に過ぎない。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説・文学 ( 国内・近代 )
感想投稿日 : 2018年4月14日
読了日 : 2018年4月13日
本棚登録日 : 2018年4月5日

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