「アブサロム、アブサロム!」上巻はフォークナー恒例の、独特の読みづらさに呻吟した。だが、下巻では少し読み易くなっていた。これは、ハーヴァードの大学生シュリ―ヴリン(クエンティンの学友)が聴き手のようになって、語りを進めてゆくという形式のためもある。
クエンティンとシュリ―ヴが、あたかも記者か歴史家のような感じで、サトペン一族の興亡史を、その物語を、ひもといていくスタイルになっている。
恐らくフォークナー自身が一旦否定し捨て去った「神の目線」の語り口という小説技法が少し復活していて、読み易さにつながっている。そのため、フォークナーの他の小説に比べると、物語をある程度受け止めることが出来た、という読後感があるのだ。
下巻では、線の太いストーリーがしっかり彫り込まれている。山岳地帯に生まれたプアホワイトだったトマス・サトペン少年。父の使いで訪ねたある邸宅で、黒人執事に門前払いを食った経験。その屈辱を機に、トマスサトペンは立身出世の構想(デザイン)を胸に秘める。西インド諸島のハイチに単身渡航し農場で働き、農園主の親娘と縁を築き、財産づくりの基盤を作る。その後、その娘と最初の離婚。大勢の黒人奴隷を連れて米国南部に帰郷し、ヨクナパトーファ郡に広大な地所を入手し、大邸宅と農園を建設。しかし、ハイチに残した元妻はその後息子を生んでおり、その青年は米国南部に出現。トマス・サトペンの実子である息子ヘンリーと娘ジュディスに接近。サトペンは自分の血をわけた子たちの近親相姦、そしてハイチの子に黒人の血が混じっていることから、実子の血がサトペン一族の血に入ることを忌避。
その後「犬神家の一族」の如き、血の復讐劇が展開してゆく。さらに、南北戦争による「祖国」荒廃の惨状も加わり、壮絶なほどドラマチックな展開に至る。
というわけで、フォークナーの主要作品のなかでは、本作「アブサロム…」を最も、favoriteと感じている。
映画化してほしい感じもする、監督はアンソニー・ミンゲラで。
- 感想投稿日 : 2022年10月30日
- 読了日 : 2022年10月25日
- 本棚登録日 : 2022年10月22日
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