シン・レッド・ライン 下 (角川文庫 シ 18-2)

  • KADOKAWA (1999年2月1日発売)
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感想 : 2
3

1942~3年、第二次世界大戦・太平洋戦線の激戦地ガダルカナル島を舞台にした小説。
日本兵達が絶望的な戦闘と飢餓に見舞われた地獄の戦場として知られるガダルカナルの戦場が、アメリカ陸軍の兵卒の側から描かれる。
 地獄の戦場だったガ島の実態を、あえて米軍の視点から読みたいと思い、本書を手にとった。
 地べたに頬を押しつけてへばりつき、砲弾の炸裂とかすめ飛ぶ機銃弾に震える米兵たち。歩兵の恐怖がリアルに迫ってくる。
 戦闘の恐怖、仲間の栄誉への嫉妬、戦闘に怯える自分への自己嫌悪。優位な戦況に転じた米兵が日本兵を虐殺していく昂揚感。
そして、国家が統計的犠牲者を必要とするのだとする諦観。
兵士達の様々な感情、観念が、混沌としたまま淡々と描かれ、そうした複雑な感情を巧みに表現して文学の深みに達している。

 登場人物は20人以上に及ぶだろうか。名前と人物像がなかなか結びつかず難儀する。物語は特定の主人公に収斂せず、小隊、中隊の多数の兵士達が織り成す群像として描かれてゆく。

 著者はジェイムズ・ジョーンズ。「地上より永遠に」の作者として知られる作家。

「シン・レッド・ライン」は98年に映画化されている。
小説では生々しい人間的感情が主題であるが、映画化作品は透徹した形而上学の趣が強く、別物の感がある。

 著者は、実際にガダルカナルの戦闘に参戦したという。
ところが、作者のあとがきに、この小説はガタルカナル島の名を借りているが、ガダルカナルでの事実そのものを描いたものではなく、作品の舞台となっている高地や戦闘は事実そのものではない、との旨が付記されている。
 創作やフィクションに近いのか、史実やノンフィクションではないのか。どのように受け止めたらよいのか、読後、すっきりしない思いが残った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外文学
感想投稿日 : 2015年11月15日
読了日 : 2009年11月8日
本棚登録日 : 2009年11月8日

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