戦争の世界史(上) (中公文庫 マ 10-5)

  • 中央公論新社 (2014年1月23日発売)
3.96
  • (29)
  • (20)
  • (17)
  • (3)
  • (3)
本棚登録 : 681
感想 : 25
5

いつものように感想は下巻でとしたいところだが
そうすると下巻を読み終えるまでに上巻の内容が忘却されることが目に見えているので
仕方なく感想を書く
われながら何が仕方ないのか自然に出てきて不思議だけれども

主題は単純に軍事史総覧でなく戦争の商業化あるいは産業化とされていて
上巻では1850年までだが一章で1000年まで
二章で1500年までの中国に焦点をあてるなどにそれが表されている

1章では後章で当然西洋がなぜ他に隔絶したかの説明に際し
何度も範にされている古代ローマの成功について
かなりざっぱり切り落としているのが目につくが
いってみれば中国と同じく文明の先行が最大の原因であるから仕方ないことか

2章で中国に焦点を当てているのは先の主題の通り
宋代になぜ産業革命の先駆といえる状況が達成されなかったに関連する
水滸伝をみると残当な気もするが
もちろん歴史ではそういうみんぞくとしてのきしつみたいな曖昧なことでは
説明にならないから当然ではある

3章では時代を戻し1000年から1600年に掛けての商業の発展と傭兵という形態に
火器による変化の兆しが主で
わりと普通に歴史ものな内容だが
日本において大砲がまったく活用されなかったのも不思議なことである
ドリフののぶのぶも大砲なにそれ強いのって感じだし硝石には詳しいのにね

4章は1600年から1750までで
戦争商業化と封建制の両立下においてなぜ西洋軍事力がこの時代に突出したかについて
火器は日本のように極東にも行き渡って集団運用された実績があるので
ワレンシュタイン(と書いてあるがドイツ語読みならヴァレンシュタイン)の
一代に終わった軍政の技術でなく
マウリッツの軍隊統制技術に力を割いている
以下そこから密集隊形での教練効果について引用
「上から決められた規則を遵奉するのは軍隊ではあたりまえのこととなったが、それは、規則違反に対して定められた厳しい罰則が怖いからだけではなくて、兵卒たちが、自分では頭を使わない盲目的な服従の姿勢と、軍隊のルーティンのなかのさまざま儀式のうちに、掛け値なしの心理的満足をみいだしたからでもあった。わが部隊への誇りを共有する一体感は、それ以外誇るべきものをほとんど持たない何十万という人間たちにとって、実感のこもった現実であった。(P267より)」
「いま、ひとりの男を連れてきて、伴奏なしで十五分間踊ってみろと命じたならば、いったいかれはそれに堪えられるだろうか。(中略)行進中に国旗に敬意を表して太鼓を鳴らしていると、兵士たちはそのつもりもなく、それに気づいてさえいないのに、いつのまにかお互いに足並みをそろえて行進しているのである。(p270より)」
教練のいわゆる「武力」上昇でなく「統率」上昇効果について良く説明されているが
それが制度化していち早く定着した
軍制を軍政として完成させたことのほうが大きな達成であり
それが軍事が国政でなく商業化されていたからというのはわかるようでもあり
やっぱり古代ローマにおける空前の達成とその後の衰退が謎でもある
中国が達成できなかったのはわかる

5章は1700年から1789年まで6章は1789年から1840年で
急に数字が具体的になったように軍事の産業化も明確になってくる
産業の方の革命前夜としてイギリスとフランスがなぜこの前後に突出し得たかと
国家総動員準備や大洋を越えて独立戦争を支えたロイヤルネイビーの活躍がひかる(ちがう)
これまでと同じくカエサルがすごいチンギスハーンがすごいでないのと同じように
ナポレオン戦争もフランスの18世紀後半の人口増加とそれ以降の急激な出生率減少などから
協調しておくとからでなくなどから説明されていてわかる

下巻に続く

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年10月19日
読了日 : 2016年6月30日
本棚登録日 : 2018年10月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする