「オーバーヒート」
「デッドライン」で院生だった僕は、博士論文も通り、15年の東京での学生時代が終わり、5年前に大阪に引越し、京都の大学で准教授となっている。舞台は2001年から2018年となっている。准教授としての生活と、自身の個人的生活が語られる。
デッドラインではふらふらと男性の間をさまよっていたが、こちらでは晴人という決まった男がいる。僕は40才になっていて、しかし肉体への欲望は変わらず率直に語られるが、対象は晴人に向かっている。
僕が帰郷するのに乗った新幹線で、「タナトスのらーめん」に出て来た、おっさんが「だーめだ」と言う、という文がまた出て来た。
デッドラインでは故郷の地名は出てこなかったが、こちらでは具体的な地名がバンバン出てきて、実家の場所とか、同級生の家とか、日光へ至る道とか、とてもリアルに想像できてしまった。いいのか悪いのか。
行間の空気感は「デッドライン」のほうが勝っているかな。でも性への渇望の描写はやはり率直でいい。映画「ブロークバックマウンテン」なんかをちょっと思い出してしまった。しかし、晴人との別れもほのかに感じてしまう。
僕はどこまで著者自身なのか? くり返し自身の生活を描いた西村賢太の世界と比べてしまう。
「マジックミラー」
店で会ったユウくんへの邂逅。覚えておく。僕は僕のこの体を。
初出:オーバーヒート 「新潮」2021.6月号
:マジックミラー 文学ムック「ことばと」vol.1 2020.4.18 書肆侃房
2021.7.10発行 図書館
- 感想投稿日 : 2022年9月20日
- 読了日 : 2022年9月20日
- 本棚登録日 : 2022年9月19日
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