時代設定は発表と同じ頃か。第二次世界大戦は枢軸国の勝利で終わっていて、アメリカは日本統治の太平洋連邦、ドイツ統治の東海岸、そして中間にロッキー山脈連邦ができている。ドイツは火星にも進出している。そんな世界で、サンフランシスコで骨董品店を営むロバート・チルダン、チルダンが売り込もうとする日本人田上、偽骨董銃を作ろうとするフランク、フランクの元妻ジュリアナ、スウェーデン人芸術家と名乗るロッツェ、などがそれぞれの生活を営む。
彼らの間で密かに話題になっているのが「イナゴ身重く横たわる」という小説で、これはアメリカ、イギリスが勝利した世界を描いているものなのだ。
アメリカ人が書きアメリカで発表するのに、この「現実の勝利国」の設定の本を登場させバランスをとったのか、などと思った。ジュリアナの今の恋人ジョーは「戦争が終わるとアメリカとイギリスが世界を山分けする。ちょうど現実の世界でドイツと日本が山分けしたようにな」とまだ読んでないジュリアナに本を説明する。・・どっちが勝っても勝者が敗者を支配する、という世界をディックは示したのか。
サンフランシスコのアメリカ人、どうにも日本人の価値観にはなじめないし、底では認めていない。ディックの日本人の表現も「黄色いチビども」とある。
そんな中ドイツのボルマン首相が死亡する。ヒトラーは死んだ設定だが、ゲッペルス、ゲーリンクなどは生きていて、次の首相は誰になるかドイツはかたずをのむ。ジュリアナはバルドゥール・フォン・シーラッハが唯一まともな顔をしている、しかし次期首相にはなれる見込みはないわね、という。・・ここで驚き。少し前にこのシーラッハの孫のフェルディナンド・シーラッハの小説を読んだのだった。祖父のシーラッハはニュルンベルグ裁判で有罪になり1966年に出所、とあるのでこの小説の時点では服役中。
転倒小説「イナゴ」の作者は「高い城」に住んでいると言われ、ジュリアナは作家に会いに行く。
「高い城の男」は発表の翌年1963年のヒューゴ賞。・・十分には理解できなかった。
1962発表
1984.7.31発行 1993.3.31第15刷 図書館
- 感想投稿日 : 2023年6月22日
- 読了日 : 2023年6月22日
- 本棚登録日 : 2023年6月22日
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