戦下の淡き光

  • 作品社 (2019年9月13日発売)
4.00
  • (10)
  • (19)
  • (8)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 255
感想 : 23
4

戦下の淡き光WARLIGHT~戦時中の灯火管制の際、緊急車両が安全に走行できるように灯された薄明り、とあり、この物語全体もまた、そうしたほのかな明かりに照らされるかのように、真実がおぼろにかすみ、なかなか姿を現さない、と訳者あとがき。まさにおぼろに霞んだほの明かり、というのがこの物語の読み心地だった。それは「僕」によって語られる、14才からの今にわたるマイ・ストーリー。

1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消した、と始まる。場所はロンドン、戦争は終わっているようだ。僕は14才、姉のレイチェルはもうじき16才。ある朝、両親に1年間の間、子供ふたりを置いてシンガポールに行くと告げられる。子供を託したのは最近階上に間借りし始めた「蛾」と僕らが呼ぶ男。父母のいなくなった家はやがて「蛾」の知り合いが入れ替わりやってくるようになり、ある日父のイスに「ダーター」と言われる男が座っていた。

そしてある日姉が地下室でみつけた母のもの・・・ ここからミステリーの色合いを帯びてくる。きわめて影の薄い父。僕は父の職場、ユニリーバに連れて行ってもらったことがあるにもかかわらず、母の中に父はいないかのよう。
それに対し留守を託された「蛾」と知り合いの「ダーター」、ダーターのころころ変わる恋人たち。僕のアルバイト先の少女アグネス。ダーターはドッグレースの犬を夜のテムズ川を使い違法に配布していて、僕はそれを手伝う。ここらへんの疑似孤児の僕の生活描写がなんともいい。実際はとんでもない状況ともいえるが。

そして大人になった僕。母の死後10年たって外務省に志願するよう通知を受け取る。戦後しばらくの間、戦争の残り禍がまだある、というのだ。そこで明らかになる母の過去。題名のごとく、戦下の淡き光に導かれた母、そしてその落とし子の僕と姉。読み終わってみると、けっこうはちゃめちゃなストーリーなのだが、なんともゆったりした読み心地だった。



2018発表
2019.9.30初版第1刷 図書館

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・小説・エッセイ 海外
感想投稿日 : 2023年10月17日
読了日 : 2023年10月17日
本棚登録日 : 2023年10月15日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする