赤白つるばみ 上 (愛蔵版コミックス)

著者 :
  • 集英社 (2014年12月25日発売)
4.41
  • (23)
  • (9)
  • (7)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 209
感想 : 12
4

『kiss』の頃から大好きで、若い頃はその作品世界にどっぷり肩まで浸かり、趣味嗜好に大きく影響を受けたので、久々に長編が出てたのはリアタイで知ってたもののなんとなく読む勢いになれずにいた。絵柄とかストーリーの雰囲気が年を経ることで変わってしまっているであろうことが「オレのキレイな思い出」(笑)を壊してしまいそうで、本屋で横目で眺めてるだけの日々を何年か過ごし、思いつきで今更読んだら、読んで良かった。本当に良かった。
他の方も感想に書かれてるように、絵柄、特にかつての線の繊細さは薄れているし、ストーリーも『kiss』や『kの葬列』みたいな先鋭さ、浮遊感は無く、地に足の着いた感じで、やはり『kiss』アゲインとはいかないんだなというのは確かに実感。でも、地に足のついた良さみたいなのが逆にあって、かつてないメッセージ性の強さが新しい作品世界という印象。
個人的にこの作品のテーマとして感じたのは、他人の感覚、考えに理解できないことであってもまずは先入観を持たずに受容すること、それは自分自身が受容されること、そして己自身の受容にも繋がるということ。分かってるし当たり前なんだけどなかなか難しい。共感覚によってそれを描いているんだけど、共感覚の描写はやはり楠本まきという感じで美しい。
ジェンダーや老化、アンチエイジングについても取り上げていて、全体のストーリーの力としては『kの葬列』とかと比して弱いものの、これはこれで作者とテーブル越しに話してるいるようで楽しかった。
『kiss』のような世界は再び現れないことをしみじみ感じ読み終えつつも、新たな世界は悩みが多くて理解されない悲しみもあるけど、でも時には祝福があり日々が続いて行くことに頼もしさを感じられて、久々に彼女の新作を読めて良かった。読み終えて何となくとりあえず明日も生きて行こうと思えた。
ちなみに、目が悪いので間違って下巻から読み始めて、えらい人間関係分からん話だなあと下巻半分くらいまで読んでしまっていた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月17日
読了日 : 2022年11月17日
本棚登録日 : 2022年10月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする