中盤までは面白くてぐいぐいひきこまれたものの、個人的には事件の真相が明かされるあたりはそれほどにはひきこまれなかった。三人称で進んでいたストーリーが、急に登場人物の独白仕立てになるのがその一因。
この話が書かれたのは昭和59年、おそらくはバブル前夜あたり。話の舞台となっている劇場、芝居の舞台に関する描写は知らないことが多くて興味深く読むことができたけれど、合間に描写される演出家の生活については、惹かれるものがなにもなかった。
それは作者の力量ではなく、個人的な嗜好の問題だとは思うのだけど、西洋の文化をありがたるばかりのあの頃の空気は、やはり薄っぺらい感情しか与えてはくれない。
この前に読んでいたのが「木瓜の花」、昭和30年代後半の話、それもその頃ですら古いものになっていた生活様式や花柳界の様子を描いたものだったので、余計にバブル前夜の生活を薄っぺらなものに感じてしまったんだと思う。
私にとってのこの作家の魅力は、やっぱり、圧倒的な筆力で描かれる人間の感情と、今では多くの家庭で失われてしまった昭和の家庭の生活美に関する描写なんだな、と思った。
「悪女について」のほうが「謎」を読み解く要素は強いかもしれない。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
国内の作家
- 感想投稿日 : 2010年10月15日
- 読了日 : 2010年10月15日
- 本棚登録日 : 2010年10月15日
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