時代は、昭和初期。当時の士族のお嬢様と、その付人としての運転手の女性“ベッキー”さんが、日常生活の謎解きをする「ベッキーさん」シリーズ。第3作で最終作の、短編3編。
第1作から読まなかった事は、大失策。
推理小説ですので、各作品その時代らしい謎解きが楽しめます。そして、作中に何作かの文芸作品を絡めます。その作品にも興味がわきます。
「不在の父」
自宅から突然失踪した子爵。その行方と理由を探します。実際にあった男爵失踪事件を題材にされています。山村暮鳥の囈言という詩の一節が、最終話への布石となります。この詩は、はじめ知りましたが、犯罪名と名詞で熟語としたような魅惑的な作品でした。
「獅子と地下鉄」
受験を控えた少年の上野補導事件。銀座三越のライオンにたどり着きます。
「鷺と雪」
ドッペルゲンガーと思われる現象の謎解きです。
そして、お嬢様が密かに想いを寄せる青年将校と最後になるであろう奇跡的な語らいが見事な最終話です。
この最終話のベッキーさんの語らいの部分が、理解できず、まあいいか?と諦め気味だったのですが、直木賞評価を読んだところ、宮部さんの論評で納得させていただきました。当初から、謎多き女性でしたが、未来から来たお嬢様になるほどと。
二、二六事件が、最終話を飾るのですが、三島由紀夫の憂国、宮部みゆきの蒲生邸と、視線が変われば小説も変わりますね。数行の昭和史から含まれるものが多い創作でした。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
直木賞
- 感想投稿日 : 2023年3月18日
- 読了日 : 2023年3月18日
- 本棚登録日 : 2023年3月18日
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