現代の金融入門 (ちくま新書 93)

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  • 筑摩書房 (1996年12月1日発売)
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 金融、あるいは金融業界に対する皆様の見方はどういったものでしょうか。例えば、リーマンショックという事件を目にして、金融業界は世の中の経済を不安定にする業界ではないであろうか、あるいは日常の金融業務を鑑みて、資金の余裕がない企業に融資するという言わば公的な役割を持った業界ではないだろうかといった見方もありえるでしょう。結論から申し上げると、その双方とも一部あり、根拠なき見方ではありません。このように金融に対する見方が多様である中で、本書は金融が何であるか、そして金融はどうあるべきかを考えるための一貫した枠組みを提供してくれます。

 著者は、金融の大家である池尾和人(慶大教授)です。理論面での業績のほかにも政府委員などを務めるなど政策の第一線でもご活躍されています。そのような方が、金融の初心者にも分かるように、数式を最小限に抑え、かつ直感的な理解を助けるように説明しています。金融の門外漢であった評者も驚くほど容易に理解でき、金融を専門とする学生と金融についての意見を交わせるレベルになりました。

 内容としては、金融の役割や機能といった基本的な知識から金融政策の概要とその学問的背景、金融と企業との関係、そしてこれからの金融業界の展望などについて書かれています。高校の政治経済のレベルから学術論文に掲載される理論の基本的なロジックまでを説明しており、本書一冊で金融を俯瞰できるようになります。特徴は、専門用語を明確に説明しているだけではなく、素人でも直感的に理解できるようにそれを言い直している点です。真に優れた人の入門書は分かりやすいということを再確認させてくれました。

 著者も多くの学者が述べるよう、経済活動を活発にするという金融の役割を維持しつつ、適切な規制によって金融業界の健全な経営を追求すべきという姿勢を貫いています。なぜなら、限りあるお金をさまざまな企業に融通するという意味で、金融は今の経済活動にとって不可欠である一方で、その金融業務に内在するリスクは適切な規制によってコントロールできると、著者は考えているからです。またその手段として、自己資本規制などをあげています。この手段は、著書が発刊されてから15年経つ今でも議論されているので、本質的な提案であるといえるでしょう。

 このように本書は、きわめて本質的な含蓄をもった本であるだけでなく、現在も進行中のウォール街デモ、あるいはリーマンショックの教訓を踏まえた金融政策のあり方を考えるにあたって、私たち市民に欠かすことのできない視点も与えてくれることでしょう。
*書き方がいつもと違うのは気にしないでください。

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感想投稿日 : 2012年1月17日
本棚登録日 : 2012年1月17日

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