何という美しい戦争文学。
「読者に衝撃を与えたければ、悲惨さを描くよりも、
悲惨な人々のすぐ脇で花を咲かせる繁栄を描くべきだ。」
これは本編二部に加えて収録された
イレーヌ・ネミロフスキーの構想ノートからの一説です。
「戦争」と「美しい」という言葉をを結び付けるのは
普通ならば余りにも不相応だと思います。
しかし、とてもとてもどこまでも美しい。
戦争という異常と、
生活という日常の対比、
都市と田舎の対比、
絶望と希望の対比。
それら対立するものが色鮮やかに表現され、
そのコントラストに息を飲んでしまう。
これは正に、戦争という巨大な手の上で
否応なく躍らされた人々が奏でる壮大な交響曲です。
本著は著者と同じくアウシュヴィッツで散った最愛の夫が
幼き長女に託した著者の遺品のトランクに収蔵されていた
遺作で、「二十世紀フランス文学の最も優れた作品の一つ」と讃えられ
2004年に死後受賞は初となるルノードー賞を受賞し、
フランスで70万部、全米で100万部、世界でおよそ350万部の
売上げを記録した作品だそうです。
独軍の進軍を控えた1940年6月、
仏政府のパリの無防備都市化宣言を受け、
一斉脱出を余儀なくされた
パリ市民の模様を重層的に描いた群像劇「六月の嵐」。
ドイツ占領下のブルゴーニュの田舎町を舞台に、
留守を守る女たちと独軍人たちの交流を描く
「ドルチェ」の中篇(ほとんど長篇)ニ篇に加え、
本来5部作となったはずの本著の構想を記したノートと
著者にまつわる個人的な書簡が後書きで収録されています。
構想ノートには未完に終わった3部以降の考察も記されており、登場人物達の先々を想像する楽しみに耽るのもまた一興です。
そして最後の悲壮な書簡には強く胸を締め付けられます。
本著を刊行された出版社様及び翻訳者様には
最大の感謝と敬意を表明したい。
- 感想投稿日 : 2013年3月28日
- 読了日 : 2013年3月28日
- 本棚登録日 : 2013年2月7日
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