金融工学入門 第2版

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2015年3月1日発売)
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金融工学入門と題するだけあって、金融工学についての知識が無い人でも読めるように設計されている。ただし、初めに世の中のあらゆる物を金融商品として扱うために抽象化を行う訓練を受ける。具体的にはあらゆるキャッシュフローの集まりが商品として、支払い金額とその時点から成る流列という物に一般化される。内容は金利や債権といった基本的な物からポートフォリオの平均分散アプローチ(現代ポートフォリオ理論)、CAPM、MFM、射影価格付けなどの価格付け理論、VaR、コヒーレントリスクなどのリスク尺度、その他、予測、効用関数、リスク中立などの一般的な話、先物やオプションなどのデリバティブとそれらを解析する2項格子やBS方程式、信用リスク解析、対数最適戦略に基づくポートフォリオの成長理論、これらを全て応用した一般的な投資戦略などである。非常にボーリュームがあるが随所に例(ベンチャー投資や金鉱・油井への投資など)が登場し実際に値を代入して計算を行うのでとても理解しやすい。また、私は解いていないのだが練習問題も非常に充実している。

しかし、著者が工学畑(数理最適化)出身というのもあってか、厳密性に欠ける部分も多く見られた。例えば、BS方程式の章では確率微分方程式(伊藤過程)が出てくるが、それに関する説明は詳しくされてなく、通常の微分方程式と異なる部分に関して、”特別な”微分方程式のためという理由で片付けている部分などもあった。その他、多くの証明においても数式よりも言葉で説明して証明完了とする部分も多く、確かに説明されたらそのような気がするのだが、もっと詳しく説明してほしいと思う箇所も多かった。難易度としては12章まではそこまで詰まらずに読み進められたが、それ以降はなかなか難しい部分も多く、理解できないまま読み進めてしまった部分も多い。もちろん私の理解力不足ということは否めないが、章の難易度が増しているのに説明が雑な部分も多かったと思う。

総括すると個人投資、仕事を問わず資産運用に関わる人間であるならば一読する価値はあると思う。少なくとも、この本に書いてあることを全て理解せずとも一度見たことがあるかそうでないかで視野が全く異なった物になるであろう。もし、この本を読んで全く理解できないというのであれば個人での資産運用を行うのはとても危険であるように思う。その場合は何かのインデックスか定期預金もしくは安全な債権に投資するのが聡明であろう(なぜならばインデックスはこれらのことを理解した優秀なファンドマネージャーが定期的にリバランスを行っているため、少なくとも自分でポートフォリオを組むよりは最適ポートフォリオに近い可能性が高いであろう)。本書は付録を含めて約750ページにも及ぶため読む箇所を限定するというのも良いだろう。そうした場合でも必ず読んで欲しいのが、3, 6, 7, 11, 12, 17, 18章である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年4月5日
読了日 : 2020年4月5日
本棚登録日 : 2020年3月13日

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