作者の阿川大樹氏は、野田秀樹氏らといっしょに劇団「夢の遊眠社」を創設した作曲家だったそうですが、後年は随筆や小説を創作する作家活動にウエイトを置かれています。
その阿川氏が沖縄はコザに通うようになって、コザの人たちとの交流を通して作品化したのが、この『インバウンド』です。
インバウンドとは、コールセンターで顧客からかかってきた電話に対応する業務区分のこと。
沖縄は、本土企業の誘致を図るために「経済特区」として法人税や地方税を安くするなどの特別措置が取られています。
また、東京・大阪から沖縄まで専用回線を引いて、料金を国と県が負担することで企業が安定して事業を行えるようになっています。
このことが沖縄にコールセンターが増えている一番の理由なんですが、人件費が本土と比べて安いこと、それからテナント賃料などの不動産が安いことも本土のコールセンターがこぞって沖縄に事業所を構える理由となっています。
この『インバウンド』は、夢を持って東京の短大に進学し、東京のOLになった沖縄コザ出身の女の子が、東京でのOL生活に挫折して、両親にも伝えずにひっそりと沖縄に戻ってきてからの物語です。
コザのゲストハウスから那覇のおもろまちにあるコールセンターまで通う主人公の動線上に出てくる地域名は、那覇の国際通りや本島西海岸を走る58号線、北谷のアメリカンビレッジといったメジャーな所から、沖縄市の園田や諸見里といったマイナーな所まで。
かみさんが沖縄市に住んでいた頃に訪ねていなかったら、てんでイメージのつかない地名も、生き生きとして情景が浮かび上がってきて、その意味で楽しく読むことができました。
ストーリー自体は、主人公の女の子がコールセンターのインバウンド業務を通して成長していく教養小説Bildungsroman(ビルドゥングスロマーン)となっています。
するすると読めて今の沖縄の一面を共感することができる一冊になっています。
- 感想投稿日 : 2014年6月15日
- 読了日 : 2014年6月15日
- 本棚登録日 : 2014年6月15日
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