ユージニア

著者 :
  • 角川書店 (2005年2月3日発売)
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本棚登録 : 2551
感想 : 402
5

恩田さんの作品は夜のピクニック以来二作目。もうほとんど細部を覚えていませんが、きれいな文体、きれいなお話、きれいな人物、だったような気がする。そんなきれいな作風のひとだと思っていたので、この小説の不安定さ、鬱々しさには意表を突かれてとても楽しめました。楽しむ、というお話ではないんですがね。うまく言えないけど。
でもやっぱり夜のピクニックの時にも感じたきれいな文体っていうのはそのまんま、彼女の文章ってほんと感覚的で美しいなあと思いました。青い部屋、白い花、色の描写がほんときれいで引き込まれます。緋紗子のミステリアスな雰囲気も、満喜子の掴みどころのなさも、描写が緻密でとても魅力的でした。風景も人物も、それそのものではなくて、むしろそれに纏う空気を描いているみたい。実体がないという意味ではなくて、実体まるごと空気と一緒に真空パックにいれて保存して、それひとパックで一事象として扱うというか。
こんなふうに物事を書けるひとって、普段どんなふうに物事を捉えているんでしょう。あたまのなかを覗いてみたいような、覗きたくないような。語り手が変わるところも、今の語り手でちょこっとだけ出てきた人が次の語り手になってまた新たな展開を開いていく、お話が二転三転、真相が少しずつ少しずつ明らかになっていく構成力もお見事でした。でも決して真相全部は見せてくれない、明らかにしない。うーん、すごい。お話がちゃんと一点に落ち着かないのも当初はおおう?!としましたが、これこそが狙いだったのかもと画策させてくれます。もう一度時期をおいて読み返したいなあ。装丁もすごくきれいでどきどきしました。表紙を裏返すと出てくる写真、これはどの場面のつもりなんだろう。書きおきを模した最初のプロローグも凝ってて素敵。でもやっぱりハードカバーは重いので、読み返すなら電子書籍買っちゃうだろうなあ。
まあなんだかんだいいつつ、お話そのものよりも、わたしはこの小説の雰囲気の描写そのものを楽しんでました。ストーリー自体はまあ、賛否両論、やっぱりわたしも少し腑に落ちないところあり。でもそんなことどうでもよくなるくらい、このひとの文章がわたし好みでとてもお腹いっぱいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2014年6月6日
読了日 : -
本棚登録日 : 2014年5月31日

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