さよなら、ヘロン (Canna Comics)

著者 :
  • プランタン出版 (2014年4月25日発売)
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本棚登録 : 634
感想 : 29
4

自分の家族との関係が物足りなくて足掻いている子供の話。片親なわけでも、虐待されてるわけでもないけど、自分が望む愛され方はしていないんだ、と早くに気付いてしまった子供の。
草次と海風(ミカと読む)は、互いの満たされなさから来る孤独感・閉塞感を感じ取って、高校の屋上で出会う。彼らにとっての避難先で出会う。それから、互いの内面には触れず、似た者同士として「故意に・無意識に傷つけあう筈がない」と言う「共犯」関係を結び(作中で草次が二人の関係をそう表現している)、それぞれ家族と疎遠なまま二人で住んでいる。恋人でも同僚でもない、何も名前が付けられない関係のままで。ルームシェアの相手、としか対外的には言いようがない。何も名前を付けない事で、あやふやさを纏う事で互いに自分の本当の心が求め叫んでいるものに目を瞑っている。
本作は「表紙」の特筆すべき完成度で、かなりハードルが上がっていると思う。作品は読み始めからほぼ音がない、と言うか、波がない。一見、何もない感じに見える。今で言う所の無気力症候群の若者の話か、と言う感じに映る。
集団の中に居ながら孤独である気配とか匂いを嗅覚で嗅ぎ取る感覚がうまく描かれてんなー。「感覚」を紙面に描くのは難しい事だと思うのよ。
草次の、何も不足がなさそうで何も満たされない感じは凄い解る。飼い殺しみたいな環境に子供としている、と言う感じ。でも結局はここら辺で擦り込まれた感覚に人間は一生縛られるんじゃないか、と思う。異世界の住人の様な人間に出会っても、飛び込んで行けないまま終わる人間のなんと多い事か…それに対する答えが描かれている訳ではない作品だと思う。やっぱり、傍にいた者勝ちと言うか、傍にいる前提である筈の家族と、全くの他人同士であるにも関わらず空気の様に傍にいられる関係のなんと言う皮肉な事か。
「孤独」は解り易くはない所にも潜んでいる。一見何事もなさそう(いい意味でも悪い意味でも)に見える人の中に、特定の相手の存在だけを欲する「孤独」があったりする。気付かれたり、自覚するのさえ怖がっているような。
ところどころ、ヤマシタトモコ系譜(雰囲気で見せる絵柄は帯にハヤカワノジコが推薦しているだけあって、通じるものがある)かな、と言う感じが見られる。美形なんだけど一見分かりにくい感じとか、初期のヤマシタ作品に見られた。私は10年近いブランクを経てこっちに戻ってくるきっかけになったのがヤマシタトモコの『くいもの処 明楽』だった。あの作品を読んだ時ほどの衝撃は感じないが、特に草次が抱く孤独感は同じ事を味わった事のある人間には、こう言う人間なら幸せのふり幅もこの位だよな、と言う納得感が非常にある作品だった。
表紙買い甚だしいレベルなので、読む人によっては評価が分かれるのでは、と思うが、個人的に物凄く感動したり揺さぶられたりはしないが、言葉にしにくいものを説明的ではなく「漫画」と言うツールでとても静かに表現していると思った。
“青鷺=朝を象徴する鳥で泣きながら飛ぶと雨が降ると言われている” 含んでいるほどに大げさに泣きが描かれてないとこがいい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: BL
感想投稿日 : 2014年12月12日
読了日 : 2014年12月12日
本棚登録日 : 2014年10月6日

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