あとになってワーグナーと決別したニーチェは処女作である本書を悔やむことになる。後代の歴史を知っているわたしたちにしてみればドイツ民族称揚がいかにもナチス好みだったろうところの方に注意が向くけれど。
21世紀に改めて本書を取り上げる視点は、ニーチェが真っ向から攻撃したソクラテス主義~科学主義、ニーチェが回避した経済主義、この二つからひとは自由たり得るかという問いかけだ。ニーチェ以後とはこの難題の尖鋭・肥大の歴史であるにすぎないかもしれない。
そしてフーコーにも受け継がれた芸術(美)的人生という問題になるのだが、今のわたしたちにとってのアートのギャップこそ時代的深刻さとして考えこまずにはいられない。
アポロ的造形芸術、デュオニソス的悲劇、その源泉としての音楽。科学と経済に厳然と対峙し凌駕する音楽。つまりそれは神話である。
そのような音楽への旅。現代のニーチェ探訪は改めてそこからだ。わたしたちにはわたしたちの神々がいるはずなのである。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
哲学思想
- 感想投稿日 : 2014年11月25日
- 読了日 : 2014年11月25日
- 本棚登録日 : 2014年11月25日
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