きけ わだつみのこえ―日本戦没学生の手記 (岩波文庫 青 157-1)

制作 : 日本戦没学生記念会 
  • 岩波書店 (1995年12月18日発売)
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本書は、1995年(平成7年)に出版された、第二次世界大戦末期に戦没した日本の学徒兵の遺書を集めた遺稿集『きけ わだつみのこえ』の新版である。
本新版が刊行されるまでには、いくつかのステップを踏んでいるが、巻末にある日本戦没学生記念会(わだつみ会)の「新版刊行にあたって」によれば、概ね次の通りである。最初に発行されたのは、1947年(昭和22年)に東京大学協同組合出版部により編集された、東大生だけを対象とした『はるかなる山河に』で、「戦没学生が最後まで失わなかった人間性」に光を当てたものになっていた。その後、1949年(昭和24年)に遺稿の対象を全国の高等教育機関に広げた『きけ わだつみのこえ』の初版が刊行されたが、朝鮮戦争の危機が間近に迫っていたという時代背景から、遺稿の取捨選択が行われ、「“人間性”より“平和”」に力点をおく編集であったという。そして、本新版は、『きけ わだつみのこえ』の刊行をきっかけとして1950年(昭和25年)に結成されたわだつみ会が、前二版の長所を維持しつつ、「当時の学生たちが侵略戦争を担わされるにいたった冷酷な事実を直視し把握することができるよう」に、という問題意識のもとに再編集されたものだという。また、わだつみ会は、戦争を知らない若者が増え、また、ベトナム戦争が激化しようとしていた1963年に、「『きけ わだつみのこえ』の足らざるところを補正」するとの編集方針の元で、続編『戦没学生の遺書にみる15年戦争』を刊行したが、それは1966年に『弟二集 きけ わだつみのこえ』に改題されて、現在も刷を重ねている。
なお、「わだつみ」(わたつみ)とは、記紀神話に出てくる「海の神」(海神・綿津見)で、転じて海・海原そのものを指す場合もある言葉である。
本書には74人の遺稿が収められており、全篇に、家族や友人への愛、死に対する無念と覚悟、日本の将来への願い、(たまたま検閲を免れたと思われる)戦争や軍部への批判など、溢れる思いが綴られている。
佐々木八郎(東京帝国大学経済学部/1945年4月、沖縄海上で昭和特攻隊員として戦死/22歳)・・・「世界が正しく、良くなるために、一つの石を積み重ねるのである。なるべく大きく、据りのいい石を、先人の積んだ塔の上に重ねたいものだ。不安定な石を置いて、後から積んだ人のも、もろともに倒し、落すような石でありたくないものだと思う。出来る事なら我らの祖国が新しい世界史における主体的役割を担ってくれるといいと思う。また我々はそれを可能ならしめるように全力を尽くさねばならない。」
中尾武徳(東京帝国大学法学部/1945年5月、琴平水心特攻隊員として沖縄南西海上にて戦死/22歳)・・・「浪に消される痕であっても、足跡の主の力づよい一足一足が覗かれる。もり上った砂あとに立ち去った人の逞しい歩みを知る時、私は力づけられる。誠に我々は過去を知らず、未来を知らない。しかし現在に厳然と立つ時、脚に籠る力を知る。」
若くして戦場に散った学徒兵のこうした思いに、我々は今後も責任をもって応えていかなければならないのだ。
戦争の記憶を風化させないための材料の一つとして、受け継いでいくべき記録である。
(2020年12月了)
(尚、本書を巡る批判などについては、この後、保坂正康著『『きけ わだつみのこえ』の戦後史』を読んで、改めて考えてみたいと思う)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年12月17日
読了日 : 2020年12月17日
本棚登録日 : 2020年12月10日

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