アムンセンとスコット (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2021年12月7日発売)
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感想 : 22
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本多勝一(1932年~)氏は、長野県生まれ、千葉大学薬学部卒、京大農学部卒、朝日新聞社に勤務した、新聞記者・ジャーナリスト・作家。京大在学中に山岳部に所属し、今西錦司、梅棹忠夫等から探検やフィールドワークのノウハウを受け継ぎ、ヒマラヤ遠征などを行う。朝日新聞社入社後も、国内外各地の現地を行い、『極限の民族』三部作(『カナダ・エスキモー』、『ニューギニア高地人』、『アラビア遊牧民』)、ベトナム戦争、アメリカにおける黒人やインディアンの問題などの様々なルポルタージュを発表し、注目を集めた。『日本語の作文技術』(1976年出版、1982年文庫化)は、続編を含めて累計発行部数100万部を超えるロングセラーとなっている。菊池寛賞等を受賞。(尚、本多氏の政治スタンス及びそれに基づく様々なコメント等については、本書とは無関係なので、ここでは問わない)
私はアラ還世代で、ノンフィクション系の本はよく読むものの、本多氏(の著作)についてはこれまで触れたことがなかったのだが(意識して避けていたわけではない)、少し前に、角幡雄介氏の『新・冒険論』の中で、本多氏の冒険論こそ日本の冒険論の嚆矢、と書かれていたのを見て、本多氏の作品を読んでみたいと思っていた。また、私はこれまで、チェリー・ガラード『世界最悪の旅~スコット南極探検隊』、シャクルトン『エンデュアランス号漂流記』、ツヴァイク『南極探検の闘い』や、角幡氏の『アグルーカの行方~129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』などを読んで(極地)探検には関心があり、新古書店でたまたま本書を目にし、読んでみた。
本書は、題名の通り、20世紀初頭に南極点初到達を巡って繰り広げられた、ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊の大レースについて、なぜ、アムンセン隊が勝ち、スコット隊が敗れた(しかも全員が遭難死した)のかを、両隊の状況を同時並行的に記述して、考察したもので、『本多勝一集 第28巻 アムンセンとスコット』(1999年)の前編「アムンセンとスコット」の初めて文庫化である。
読み終えて、私は上記の通り、ガラードやツヴァイクの書いたものは読んでいたので、スコット隊の様子は知っていたものの、それをアムンセン隊と対比すると、ここまで明確に勝ち負けの要因がはっきりすることに少々驚いた。本多氏が本書を書いた主たる目的が、勝敗の分析にあるので、それが明確に浮き上がるのは当然のことなのだが、こうした競争には必ず勝者と敗者がいるのだということを強く再認識させられた。
勝敗の要因については、アムンセンが根っからの極地探検好きだったのに対し、スコットは海軍出身で隊長に任命された立場であったこと、アムンセンが徹底した事前調査に基づき完璧な計画を立てて遂行したのに対し、スコットはしばしば感情に流されて計画を変更したこと、また、技術的には、アムンセンが犬ぞりを主力としたのに対し、スコットは馬ぞりを使ったこと(これもいわば事前調査・分析の差だが)などがあるのだが、本書では、コンサルタントの山口周氏が解説を書いており、次のような分析をしている。一つは、「マネジメントの側面=権力格差(リーダーとメンバーの間の権力の差)の大小」で、アムンセン隊はこれが小さかったのに対し、スコット隊はこれが大きく(スコットが隊長になった経緯から当然と言えるが)、南極探検という不確実性・不透明性の高い環境においては、前者のようなリーダーシップが有効だったという。もうひとつは、「パーソナリティの側面=内発的動機の有無」で、これは上述したように、南極探検に関しては、アムンセンが「内発的動機により、夢中になる人」であったのに対し、スコットは「外発的動機により、一生懸命頑張る人」であり、「頑張る人は夢中になる人に勝てない」ということを示しているという。なるほどである。
二人の勝負は、確かにアムンセンの完勝に終わったのだが、後の記録や作品については、寧ろスコットに関するものの方が多いと思われ、歴史が敗者に優しかったことは救いといえるのかも知れない。
(2024年4月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年4月26日
読了日 : 2024年4月26日
本棚登録日 : 2024年4月21日

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