資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社 (2014年3月14日発売)
3.92
  • (175)
  • (266)
  • (145)
  • (30)
  • (7)
本棚登録 : 2282
感想 : 266
4

水野和夫(1953年~)氏は、早大政経学部卒、早大大学院経済学研究科修士課程修了、三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト、民主党政権の内閣官房内閣審議官、国際投信投資顧問顧問、日大国際関係学部教授等を経て、法政大学法学部教授。
本書は、2014年に出版され、経済書にもかかわらずベストセラーとなり、2015年の新書大賞第2位を獲得。
2013年に発表(日本語訳は2014年出版)されたトマ・ピケティの『21世紀の資本』とともに、資本主義の問題・限界を明快なメッセージで指摘したことで、多くの人々に受け入れられた。
近年、斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』をきっかけに「脱成長」に関わる議論が大いに注目されており、私も、あまりに不合理な格差を生む資本主義の限界を強く感じているのだが、先駆けて「資本主義の終焉」という警鐘を鳴らした本書を、今般改めて読んでみた。
エコノミストの著書なので、少々経済学の基礎知識を要する記述はあるものの、論旨は以下の通り明快である。
◆近年、先進各国で超低金利の状態が続いているが、これは、16世紀末~17世紀初頭にジェノヴァで同様の現象が起こって以来のことである。利子率ゼロとは利潤率ゼロということ、即ち、利潤を得られる投資機会がなくなったということであり、そのときの経済システムが限界に突き当たったことを示している。16世紀においては、その結果、中世から近代への移行(中世封建システムから近代資本主義システムへの転換)が生じた。
◆資本主義とは、「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」即ちフロンティアを広げることによって「中心」が利潤率を高め、資本の自己増殖(「成長」)を推進するシステムであり、その性格上、常にフロンティアを必要とする。しかし、20世紀後半のグローバリゼーションの進展は、発展途上国を「周辺」に留めることを許さず、地球上の「地理的・物的空間」のフロンティアを消滅させた。その後、資本主義は、金融自由化により新たに「電子・金融空間」というフロンティアを創り出して延命を図ったが、米国のサブプライム・ローン問題、ギリシャ危機、日本の非正規社員化問題などを引き起こし、2008年のリーマン・ショックでバブルは結局限界に達した(実体の伴わないバブルが崩壊した)。
◆このまま資本主義システム(=「成長」)の延命に拘れば、世界中の(地域を問わない)相対的弱者が「周辺」に成らざるを得ず、格差の拡大を生み、延いては国民国家の危機、民主主義の危機、地球持続可能性の危機を顕在化しかねない。よって、今こそ我々は近代(=資本主義)そのものを見直し、脱成長システム=ポスト近代システムを見据えなくてはならない。

では、ポスト近代システムとはどのようなものなのかについては、著者は正直に「その明確な解答を私は持ちあわせていません」と述べているのだが、この解答の一例が斎藤氏のいう「脱成長コミュニズム」と読むことは可能であろう。
様々な意味で「大分岐」にある今、改めて読む意味のある一冊と思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月7日
読了日 : 2021年9月7日
本棚登録日 : 2021年8月25日

みんなの感想をみる

ツイートする