シンギュラリティは近い[エッセンス版] 人類が生命を超越するとき

制作 : NHK出版 
  • NHK出版 (2016年4月22日発売)
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レイ・カーツワイル(1948年~)は、ニューヨーク生まれ、マサチューセッツ工科大学卒の発明家、実業家、未来学者。
1990年、『The Age of Intelligent Machines』を発表し、インターネットの普及、チェスの試合でのコンピュータの勝利を予言。1999年、『The Age of Spiritual Machines』(邦訳『スピリチュアル・マシーン』)で「収穫加速の法則」を提示。2005年、『The Singularity Is Near : When Humans Transcend Biology』(邦訳『ポスト・ヒューマン誕生~コンピュータが人類の知性を超えるとき』)で技術的特異点(シンギュラリティ)についての踏み込んだ記述を展開し、世間一般にシンギュラリティという概念が広まるきっかけを作った。
2012年にGoogleに入社し、2019年現在、機械学習や自然言語処理技術を開発するチームを率いている。
本書は、上記の『ポスト・ヒューマン誕生』を親本として、そのエッセンスをコンパクトに再編集した、日本オリジナル版であり、2016年に出版された。
本書は、大部の親本を編集するにあたり、カーツワイルのいう「テクノロジー進化の法則(収穫加速の法則)」、つまりテクノロジーの指数関数的な成長がシンギュラリティへと至るという主旋律を、明快かつシンプルに提示すること、そして、AIが2045年に人類の知性を超える道筋を、主に「脳という仕組みの解析とリバースエンジニアリング」という点に絞って再構成したことにより、いわば「AIとシンギュラリティ」についてのカーツワイルの主張がストレートにわかる入門編となっている。
私は、気候・環境問題のような、現代の人間社会が抱える喫緊の課題に加えて、人類の未来を左右しかねないテクノロジー(AIやゲノムテクノロジー)の進歩に高い関心を持っており、本書を手に取ったのはその流れによる。
読み終えてみると、予想以上に専門的な記述が多く、また、翻訳書特有の読み難さ(翻訳の巧拙の問題ではなく、原書の記述が日本語による思考パターンと異なることによる読み難さ)もあり、消化不良の部分も少なくなかったが、大筋は追うことができた。そして、(前半に書かれている)テクノロジー進化の速度の蓋然性、即ち、シンギュラリティへの到達が2045年なのか、もう少し先なのかはともかく、いずれにしても、(後半に書かれている)AIとGNR(遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学)の進歩が、人類の未来を左右するというか、「そもそも、人間とは何なのか?意識とは何なのか?」という究極の問いを、早晩我々人類に突き付けるということを再認識し、暗澹たる気持ちになった。
カーツワイルは自らを「技術的特異点論者(シンギュラリタリアン)」と呼び、AIの進歩をポジティブに捉え、「(不老不死のために)1日も早く機械の体を手に入れることを夢見ている」とまで言っているのだが、私は、人間がサイボーグ化していくことなど到底受け入れられないし、そうなる前に、賢明な人類は立ち止まることができると信じたい。
テクノロジー進化の究極の世界を知る上で、一読の意味のある、世界的ベストセラーのエッセンシャル版である。
(2022年1月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年1月19日
読了日 : 2022年1月19日
本棚登録日 : 2021年11月30日

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