口語訳 遠野物語 (河出文庫 や 27-1)

  • 河出書房新社 (2014年7月8日発売)
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本書は、民俗学者・柳田国男が発表した『遠野物語』を、岩手県遠野に生まれ、遠野市内の小学校校長を務めた佐藤誠輔(1928年~)氏が口語訳したものである。1992年に初版、2013年に改訂新版が出版され、2014年文庫化された。
柳田国男(1875~1962年)は、兵庫県に生まれ、東京帝大卒業後、農務官僚、貴族院書記官長等を務める傍ら、全国各地を訪れて民俗調査を行い、日本民俗学の祖と称される。
『遠野物語』は、遠野地方の民話蒐集家・小説家であった佐々木喜善により語られた遠野地方に伝わる逸話・伝承を、柳田が筆記・編纂し、1910年(明治43年)に発表されたもので、日本の民俗学の先駆けとも称される作品。その中には、ザシキワラシ、河童、神隠し、姥捨てなど、現代の我々もしばしば口にするキャラクターや事象が登場し、また、神への畏怖と感謝、祖霊への思いなどが通底しており、日本人の死生観や自然観が凝縮されていると言われる。
私は以前より、本作品を一度は読んでみたいと思いつつ、原本の文語体がハードルとなっていたのだが、今般たまたま口語訳の本書を見つけ、通読することができた。尚、本作品はその文語体に趣があると一般に言われるが、民俗学者・赤坂憲雄氏は解説で、「『遠野物語』の文体はいかにも特異なものだ。それは、柳田が周到な文体研究の果てにつくりあげた、いくらか奇妙な文語体であった。」、「『遠野物語』の文体は、遠野の語りの世界からはまるで隔絶したものであった」、「佐々木喜善によるいかにも訥々とした、遠野方言の語りをひとたび脱色し、消去したうえで選ばれた柳田の文体」と書いているのは、ある意味興味深く、また、会話文のみ遠野方言で表し、そのほかは口語訳した本書に、新たな価値を与えていると言えるのかもしれない。
いずれにしても、「日本人の死生観・自然観が凝縮されている」作品を知る上で、手に取り易い良書といえるだろう。
(2021年3月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年3月9日
読了日 : 2021年3月14日
本棚登録日 : 2021年2月28日

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