いま世界の哲学者が考えていること

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  • ダイヤモンド社 (2016年9月9日発売)
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著者の岡本裕一朗氏は、一般向けの新書も上梓している西洋近現代思想の研究家。
著者は、まず序章で、フーコーの表現を引用して、“哲学”とは「たった今進行しつつあることは何なのか、われわれの身に何が起ころうとしているのか、この世界、この時代、われわれが生きているこの瞬間はいったい何であるのか、われわれは何者なのか」を問題にすることとし、“現代(今)”というこの時代は、「歴史的に大きな転換点」、「「モダン」そのものの転換点」であるが故に哲学にとって重要なのであるという。
そして、前段で、デリダやローティをはじめとした20世紀後半のスター哲学者の多くが亡くなった後、「21世紀になって、世界の哲学はどうなっているのか」を俯瞰し、後段で、「モダンの転換」に関わる5つの重要なテーマについて、哲学者の範疇に留まらない、各領域の専門家の思想を縦横に引用・紹介している。
特に後段については、いずれも単独の主題として取り上げた書籍を読んでいるような関心の高いテーマで、非常に興味深いものであった。
なお、後段の5つのテーマでは以下のようなキーワード、キーコンセプトが取り上げられている。
1.IT革命・・・人工知能(AI)、シンギュラリティ(技術的特異点)、SNSと民主化運動、スマートフォンのドキュメント性、パノプティコンとシノプティコン
2.バイオテクノロジー革命・・・ゲノム編集、ポストヒューマン、リベラルな優生学、トランスヒューマニズム(人間超越主義)、クローンと一卵性双生児、寿命革命、脳科学研究と近代的刑罰制度
3.資本主義・・・「歴史の終わり」、ピケティ現象、格差是正と貧困救済、リベラリズムとリバタリアニズム、ネオリベラリズム(新自由主義)、グローバリゼーション、仮想通貨、フィンテック、シェアリング・エコノミー、
4.脱宗教化・・・「世俗化」と「ポスト世俗化」、「文明の衝突」、多文化主義モデルと社会統合モデル、グールドのNOMA原理とドーキンスのNOMA原理批判、創造説とネオ無神論
5.環境問題・・・地球温暖化問題、人間中心主義、ディープ・エコロジー、環境倫理学、環境プラグマティズム、生態系サービス、リスク社会論
歴史の転換点に生きる我々が考えるべき根本的なテーマについて、現代の知性たちの多様な主張をヒントに、自らの考えを掘り下げることができる、有用な一冊と思う。
(2016年10月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年10月16日
読了日 : 2016年10月16日
本棚登録日 : 2016年10月10日

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