文庫 ヒトラーとは何か (草思社文庫 ハ 1-1)

  • 草思社 (2017年8月2日発売)
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著者のセバスチャン・ハフナー氏は、1940年代から80年代まで、新聞、雑誌のコラム、ラジオ、テレビの討論、講演、歴史著述等で活躍した稀代のジャーナリスト。ドイツ現代史を語らせたら右に出るものはいないといわれ、一定の教養を備えたドイツ人なら知らぬ人はいないとさえいわれる。
本書は、ハフナー氏が晩年の1978年に書き上げ、1年間に旧西ドイツで30万部を売り上げたベストセラーである。年代に沿って事実を書き綴った伝記ではなく、ヒトラーを分析するために本質的な要素だけに還元し、そのテーマ(遍歴、実績、成功、誤謬、失敗、犯罪、背信)毎に章を設けて分かり易く分析している点が特徴である。
まず著者は、「長いあいだ希望のない無能な人生を送ってきた男が、やおら天才政治家として一国を支配し、そのあとふたたび希望のない無能者として生涯を終える。おなじ一人の人間にこんなことがありうるのだろうか。どうしても解明しなくてはならない」と、本書を記した理由を語る。
そして、「二つの相反する理由から、ヒトラーの世界観はなんとしても追究しておかなくてはならない」とし、「第一の理由は、いま追究しておかないと、ヒトラーの世界観がわれわれの想像以上に、ひろく大きく深くこれからも生き続けてしまう危険があるからである」、「第二の理由は、ヒトラーの世界観のうち、まちがったことと、ある程度妥当なこととをきちんと区別しておかないと、たとえ正しいことでも、ただヒトラーがそういったというだけで、タブー視されてしまう危険があるからだ」と述べる。
私はこれまで、ヒトラーについて詳しく知ろうとしたことはなかった(むしろ、避けていたかもしれない)が、本書を読んで、①ヒトラーが“余人をもって代えがたい自分”を作るために、意図的に国の仕組みや後継者を作らず、国の将来にも配慮しなかったこと、②ヒトラーは極右・階級政治家ではなく、むしろ左翼的ポピュリストであり、その唱えたものは極めて社会主義的な「人間の国有化」であったこと、③今日の世界は、気に入ろうが入るまいが、ヒトラー(の失敗)が作ったものであり、ヒトラーがいなければ、ドイツとヨーロッパの分裂も、イスラエルの建国も、植民地の早期解放も、ヨーロッパ社会の階級解体も起こらなかったこと、④ヒトラーにとって、モスクワ陥落を目前にした対ロシア戦敗北後の3年半の戦争は、ヒトラーがユダヤ人絶滅をやり遂げるのが先か、連合軍がドイツを打ちのめすのが先かの“駆け比べ”であったこと、➄ヒトラーは、自らの期待に応えられなかった“弱い”ドイツ民族に対し、最後にはその滅亡を企図したこと等、多くの再認識・発見があった。
現代のドイツ、ヨーロッパ、更には世界を理解する上で、一読するべき一冊ではないだろうか。
(2017年10月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2017年10月7日
読了日 : -
本棚登録日 : 2017年8月10日

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