まるまるの毬

著者 :
  • 講談社 (2014年6月25日発売)
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本棚登録 : 742
感想 : 140
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一日に商う和菓子はニ、三品に限定。品書きも仕入れ具合や天気、主人の気分次第で毎日変わる。
こんな職人気質な主人が商う菓子屋が身近にあったなら、日替りで出される和菓子をぜひ食べ比べしてみたい。

江戸の庶民の舌を喜ばす「南星屋」。
渡り職人として、主人が国中を旅して知り得たレシピを元に丹精込めて創れる和菓子の数々は、私でも聞いたこと、食べたことのあるものが登場し、読んでいてわくわくする。聞いたことのない和菓子の画像を検索してみたり、と読み物だけでない楽しみ方もできた。

個人的には、地元の生姜糖が出てきたり(実はちょっと苦手だったりして…)、きな粉を使ったうぐいす餅(他の地方では抹茶を使うなんて初めて知った)など、嬉しい発見も多々あった。
福岡は太宰府にある梅ヶ枝餅。聞いたことはあっても食べたことはない。これは一度食べてみたい。

すったもんだあったけれど、ひたむきな職人としての気骨が長年染み付いた主人の真摯な姿勢と、その周囲を固める家族の信頼関係に勝るものはない。
主人と孫娘が共に創る新作菓子に、ますます期待が高まる。
人情話に美味しそうな和菓子。これら最強アイテムてんこ盛りの「南星屋」にまた来店したい。

菓子は甘いが、人生はそんなに甘くはないよ。
甘い菓子の中にぴりりとした刺激もそっと忍ばせる。
西條さんの、冷静かつ穏やかなメッセージが込められた物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 西條奈加
感想投稿日 : 2021年3月17日
読了日 : 2021年3月16日
本棚登録日 : 2021年3月13日

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