絞め殺しの樹

著者 :
  • 小学館 (2021年12月1日発売)
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感想 : 111
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主人公への仕打ちがあまりにも酷すぎて、心折れて途中で何度も読むのをやめようかと思ったけれど、この物語の着地点が知りたくて最後まで読み切った。
こんなに辛く重苦しい気持ちになったのは久しぶり。

どこでボタンをかけ間違えたのだろうか。
大人の都合で勝手に下働きに出させられ、挙げ句に色街に売り飛ばされそうにもなって。
けれど味方となってくれる大人たちが現れて良い方向へと導いてくれた。それは泣きたくなる程嬉しいことで、今度こそ救われると思った。
それなのに。
守ってくれる身内が皆無の状況で、幼い頃から常に周囲の目を気にしなくてはならず、理不尽な仕打ちにも耐え思ったことを告げることも禁じられていた。
大人にさえなればきっと、と思っていたのに大人になればなったで新たな障害が待ち受けていた。
周囲の人たちから勝手に寄りかかられ重荷を背負わされて、逃げ出すことも出来なくなる。
いったいどうすればこれら負のループから抜け出せたのか。

この世を生きる上で血の繋がりも大切だけれど、人と人を結びつける縁はもっと大切だと思えた。そして縁を呼び起こせるのは普段からの心掛けなのだと。
実の親子なのに親子として一度も対面することのなかった母と息子。けれど物事に対する誠実な姿勢が母から息子へと見事に遺伝していて、読んでいて救われた。
母には叶わなかったあれやこれやも、この芯の通った息子ならきっと叶えてくれる。息子の穏やかで光の差す未来を予感させるラストに、ほっと胸をなでおろした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 河﨑秋子
感想投稿日 : 2022年6月25日
読了日 : 2022年6月25日
本棚登録日 : 2022年6月20日

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