高度成長 (中公文庫 よ 46-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2012年4月21日発売)
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感想 : 24
5

読売新聞社から出ていた<20世紀の日本>シリーズ第6巻の待望の文庫化。著者は東京大学大学院教授(マクロ経済学)の吉川洋(1948-)。

【構成】
第1章 今や昔 高度成長期直前の日本
第2章 テレビがきた!
第3章 技術革新と企業経営
第4章 民族大移動
第5章 高度成長のメカニズム
第6章 右と左
第7章 成長の光と影 寿命と公害
おわりに 経済成長とは何だろうか

<20世紀の日本>シリーズを全て読んでいるわけではないが、このシリーズはハズレがなくていい。そして、シリーズ中で特に手に入りにくい吉川洋『高度成長』が文庫化されたのは喜ばしい限りである。

高度成長を支えたものは、急速な内需拡大と鉄鋼業を中心とした製造業の飛躍的な労働生産性向上という産業振興に他ならない。そして、本書が指摘するように、工業部門が農業部門の労働人口をひとしきり吸収し、耐久消費財の消費量が頭打ちになった1970年代にその拡大が収束し、1973年のオイル・ショックにより完全に幕が降ろされる。

そして、そのようなマクロな経済拡大よりも、農村から離れた大量の都市住民の生活が現出したことがそれ以前との時代の隔絶を象徴し、同時代に暮らしていた人たちに生活の変化を実感させた。巻末の解説にもあるように、本書は随所に当時の生活感を喚起させるエピソード、写真を挿入し、リアリティを喚起している。

リーマン・ショック以後、東日本大震災以後、「経済成長」という言葉に無条件で賛辞を捧げることをためらう人が増えている。「今いかなる成長を求めるのか」あるいは「成長は求めない」のかという難題は今すぐに答えは出ない。その前に、まずは「戦後」の象徴である「高度成長」という時代を通じて、戦後日本社会の変化を本書で学んではどうだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 学術(歴史学)
感想投稿日 : 2012年5月2日
読了日 : 2012年5月1日
本棚登録日 : 2012年4月28日

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