古代史捏造 (新潮文庫 ま 17-4)

  • 新潮社 (2003年9月1日発売)
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感想 : 4
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 学生の頃、実習で発掘の真似ごとみたいなことしていたから、この発掘捏造事件が話題になったときは興味深く進展をみていた。 前書の『発掘捏造』ではその捏造の手口や、毎日新聞取材班のスクープにいたる経緯が詳しく書かれている。
 この『古代史捏造』は神の手と呼ばれたたったひとりの考古学者の石器発掘捏造が、考古学界に及ぼした多大な影響を追跡取材した本。影響というより旧石器時代に関しては崩壊といってもいいくらいだ。何十年も信じられてきた歴史が突然、全部ウソでした!となったわけだから、考古学会はもとより、遺跡を町おこし、村おこしに活用してきた自治体や、発掘に参加してきた多くの人々に与えた虚脱感は一体どれくらいあったのだろう。教科書で習った町の歴史は、ぜ〜んぶウソでした!と知った子どもたちのショックはいかばかりか。
 終戦直後の日本人くらいのインパクトがあったんじゃなかろうか。


 もちろん悪いのは藤村氏本人なのだが、彼の発見を認めてきた周囲も悪い。ある意味、藤村氏は捏造という間違った手段でだが、皆の願望を形にしてきたという面もある。
 地質学者が火山灰の堆積層から石器がでてくるわけがないと主張したのに、考古学者たちは無視した。
 ある遺跡から発掘された石器の破片が30キロ離れた他の石器の割れ口と一致した、だからこの遺跡間には交流があった、なんて話、なぜ信じるのか。そんな偶然あるわけないだろ、と普通の人だったら誰も信じないと思うのだが、考古学者たちは信じた。
 だから旧石器時代の嘘の歴史を作り上げたのは藤村氏だけでなく、考古学会にも責任がある。


 そんなに面白い本ではないから、読むなら『発掘捏造』だけでいいかと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2014年8月5日
読了日 : 2014年8月5日
本棚登録日 : 2014年8月5日

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