新装版 関東大震災 (文春文庫) (文春文庫 よ 1-41)

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  • 文藝春秋 (2004年8月3日発売)
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 関東大震災による死者は家屋倒壊による圧死より、火災による焼死、窒息死が圧倒的に多い。

 とくに大惨事の場となったのが両国駅近くにあった陸軍被服廠跡だ。火災から逃れた避難民が吸い寄せられるようにこの空き地に集まった。その数4万人以上。四方の市街地は方々で火災が発生していたが、この空地は火除け地として十分な敷地を持ち、火が燃え移るようなものがなかったため、避難してきた人々は、やっと安堵のため息をつくことができた。緊張から解放され、休息をとるもの、食事をとるもの、暇を持て余し将棋を指すものまでいた。


 しかし、火災の熱により生まれる上昇気流が、燃焼に要する酸素を延焼をまぬがれていたこの空き地からぐんぐんと吸いとり、火炎を伴う巨大な竜巻を発生させた。火災旋風だ。


 密集していて逃げ場のない人々は成す術なく旋風の火柱に吸いあげられ、焼かれながら遠くに飛ばされ、上空からたたき落とされた。大八車に山積みされた家財道具に火は燃え移り、一面火の海となった。この火災旋風によって避難していた人のほとんどが亡くなった。その数は3万8000人。ほぼ全滅と言っていい。奇跡的に助かった人というのは死体がクッション代わりになって落下の衝撃を吸収してくれたから、とか、死体の下に潜り込んだため火と熱から逃れられたとか、そんな話ばかりだ。
 酸鼻を極めた描写が続くのでもう書かないが、火炎地獄というものがあるなら、まさにこのことを言うのだろう。


 余震や火災がおさまったあとの人心の混乱も恐ろしいものがある。
 朝鮮人への虐待、虐殺は有名だ。井戸に毒を放り込んだとか、武装して大挙して押し寄せてくるなどのデマが飛び交ったために、やられるまえにやってしまえ、ということで始まった。その根底には半ば強引に日本統治にしてしまった朝鮮に対して、日本人の心中に引け目と、いつかやり返されるという恐怖心があったことが関係している。


 ひどいのは、これらのデマを新聞が取り上げ、あたかも事実のよう報道していることだ。人々が得る情報のほとんどが新聞報道だった時代に、真偽を確かめずに憶測記事を出す。それを人々が「新聞だから間違いない」と判断し、朝鮮人の暴動が実際に起きていると信じ込んだ。新聞報道が拍車をかけたと言っていい。全くひどい。


 避難民の衣食住の問題も深刻だった。物資が足りず、略奪が横行した。人身売買も行われた。
屎尿糞便の処理は追いつかず、人々は野で用をたすため疫病の発生が懸念された。遺体の腐敗は進み、身元の確認ができぬまま多くの人々が野焼きで荼毘に付された。


 この本を読んで、数日間分の水と食料と簡易トイレは個人で用意したほうがいいと思ったが、停電で通信端末がことごとくつながらなくなった場合は、情報をどこから得ればいいのかわからなくなった。やっぱり新聞なのだろうか。警察や自衛隊によるアナウンスなのだろうか。地域の特定避難場所に行けばいいのか? もっと勉強しておかなければいけないと思った。


 火災旋風だけは個人の力ではどうにもならない。街づくりの段階から行政と住民が危険を想定して防ぐ手立てを考えなければいけない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年11月21日
読了日 : 2013年11月21日
本棚登録日 : 2013年11月21日

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