燕の昭王に気に入られ、燕の将軍となった楽毅の活躍を描く最終巻。
小国である燕が超大国である斉を攻略するという図式のクライマックス。
これはこの大作の前半部で悲劇的に描かれた、楽毅の祖国中山と趙の戦いを思い起こさせます。
ところが今回は上司にも恵まれ、有能な部下もたくさん。
そして何よりも、祖国を失ったがゆえに大きく成長した楽毅自身がある。
彼の熟達した戦術が、怒涛の勢いで超大国を呑み込んでいくさまは、読んでいて圧巻でした。
また、楽毅の上司である趙の昭王、この人の名君ぶりも印象的です。
楽毅と昭王の上下関係は、本当に理想的ですね。
孫子が説くように、そして秦の統一の基礎を作った商鞅と孝公が実際にそうであったように、偉業を成し遂げるには、絶妙な信頼のうえに成り立った上下関係が必須であるということでしょう。
さて、「楽毅」は、全編を通して、戦争が描かれる作品であります。
ですが戦争を描くことで、そこにある人間を描くことに成功しています。
今は平和な世の中ですが、だれの人生にも、なんらかの難局があるはず。
それを現代人にとっての戦争と呼ぶなら、この作品はその戦争を勝ち抜くための勇気をくれるものだと思います。
大切なことは、勝ち抜くといっても、手段を選ばずに、とにかく勝てばよろしい!というわけじゃないということ。
勝つことで信頼を得る、それがこの作品で生きている楽毅という名将の「見事な」勝ち方なのです。
困った時、楽毅ならどうするか……??と考える。
この作品を読めば、常に冷静に、謙虚に生きた名将が、読者にとっての戦争に、新しい活路を見出してくれるかもしれません。
- 感想投稿日 : 2015年8月5日
- 読了日 : 2015年8月4日
- 本棚登録日 : 2015年6月14日
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