彼の作品の多くが孤独な中年男性を描いているのに、今作は珍しく家族が描かれている。それほど親密な家族ではないにしろ、現代の平均的な家族の有り様が書かれてる。もうひとつ特徴的なのは主人公がしっかりとした夫婦関係を持っていることだ。いっときは家庭内別居のような冷たい関係であったが、少しづつ関係を修復して以前のように仲の良い関係を築く。愛情深い関係だ。しかしその関係は長く続かない。主人公は末期の癌に罹り緩やかに死に近づいていく。世界も不穏な動きがある。目的不明の高度な技術を駆使したテロが頻発する。それは世界の破滅を目的としたようなテロである。小説の最後は、寂しく悲しい余韻を残す。登場人物を借りて語られる言葉は、全人類に向けての言葉のようだ。現代に生きる我々の生きづらさ、孤独、不安、悲しみが彼らの言葉の中にある。未来に起こるだろう全人類滅亡の悲しみを先取りした感覚を覚え、切なくなる。
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- 感想投稿日 : 2024年1月14日
- 読了日 : 2024年1月8日
- 本棚登録日 : 2024年1月8日
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