香港警察東京分室

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  • 小学館 (2023年4月21日発売)
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感想 : 101
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初読みの作家さんで、前から気になっていた月村了衛先生の最新作です。現在進行形の非常にデリケートな国際情勢を扱っています。

本作は、香港の民主化運動を背景に警察主導で構築された日本と香港の合同組織による極秘任務を描いた作品。中国政府の思惑や香港側各メンバーの民主化運動への複雑な心境も相まってストーリーに深みを与えています。

神田神保町の雑居ビルに拠点を構え、両国の警視から巡査部長までのカウンターパート各5名が対峙するように着座。この風景にも同組織の警察内の扱いや性格が表れています。心理描写の視点移動が頻繁なのも特徴です。

会議では、日本側のキャリアらしからぬ管理官・水越の惚けた所作と係長・七村による上司の真意を察した言動。この女性達に警戒する香港側。香港側も一枚岩ではなく、本音と建前が交錯する複雑な心理的駆引きに惹き込まれます。

警察小説では、警察内部の縄張り争いにどう折り合いをつけるかも話にペーソスを効かせる要素と言えます。本作でもこの悪癖に香港側が呆れる反応が意外なんて思っていたら、まさか展開まで左右するとは…不覚でした。

小柄で童顔、緩い言動でメンバーを脱力させる水越。捜査経過への違和感から背後の大きな権力構造に気づく洞察の鋭さと権力に対峙する静かな熱さ。そして、組織のパワーバランスを俯瞰して、最適な人物を唆す強かさ。変人と言われる警察キャリアの傑出した突破力と人間力にまたもや心を射抜かれました。

読後感は、ミッション・インポッシブルを見終えた後のような、心地よい脱力感でした。24年後の2047年まで?ミッションは続く…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月14日
読了日 : 2023年8月14日
本棚登録日 : 2023年8月14日

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