ナルニア国物語第六巻。物語はナルニアの創世にさかのぼり、一巻へ至る経緯を描くエピソードゼロ。ここまで、作品が発表された順(岩波書店版)に読んできた場合は前日譚としての楽しみ方ができるが、光文社古典新訳文庫版では本作が第一巻に配置されており、時系列順に読むという楽しみ方もできる。ライオンと魔女、子どもたちとの因縁の始まりが語られるのはそれだけで興味深いし面白い。しかし本巻で注目したいのは、より鋭い人間への洞察力とさらに深まった信仰についてのメタファー。腐った大人や政治家に読ませたい文章がちらほらあってニヤリとしてしまう。アンドルーおじが、現場にいながらナルニアで起こったことやディゴリーの悲しみと冒険を理解していない、まったく視界に入っていないのはリアル。人は各々が自分の体験する宇宙を作り、他人はそれに干渉できない、いわゆる有名な「お前がそう思うんならそうなんだろう お前ん中ではな」のセリフを思い出させる言述は前巻・「馬と少年」にもうかがえた。アスランとの別れの際に描かれる〈黄金色のさいわい〉は宗教的恍惚感を連想させて仏教の悟りにも通じるものがあるほどだが、決して宗教臭さはなく、子どもたちの心の強さを育む教育的な文章になっているのは見事だと思った。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年1月31日
- 読了日 : 2022年1月31日
- 本棚登録日 : 2022年1月25日
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