神々自身 (ハヤカワ文庫 SF 665)

  • 早川書房 (1986年5月1日発売)
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本棚登録 : 386
感想 : 33
5

パラレルワールドの科学技術からもたらされたエネルギー革命。その危険性を訴える物理学者ラモントだったが……。

1972年刊、ヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞した、アイザック・アシモフのSF小説。三部構成で、もともとは『プルトニウム186』という中編だった第一部に、それぞれ独立した中編として発表された第二部と第三部を加えて長編化されたタイトル。したがって、話はつながってはいるものの、それぞれがかなり毛色の違う物語となっている。

まず物語の発端となる第一部は、パラレルワールドからもたらされた科学技術によって膨大なエネルギー源を得た人類だったが、これにより地球が消滅してしまう危機を迎える可能性に気づいた若き物理学者がその危険性を訴えるものの、科学者の偏見や経済上の利権などにより、無視され爪弾きにされてしまうという話。サイエンス・フィクションとして優れているのはもちろんだが、対立する科学者たちの人間関係、そこに渦巻く感情の描き方がリアルで面白い。“愚昧を敵としては、神々自身の闘いもむなしい”というシラーの戯曲からの引用がなんとも秀逸。

そして第二部では、パラレルワールド側の異星人たちが描かれるのだが、これが脳の使っていない新しい部分を開拓されるような独特の魅力に満ちていて仰天した。性が3つあり、3人で一つの組合せを成し、3人で性交する。彼らの形態も人型ではないようで、性交といっても、スキマだらけの気体状になって混ざり合うというような……なんだこりゃ?という奇妙な感覚に陥る。この頭をやわらかくして読まねばならないSFならではの斬新さがすごい!

第三部では、移民者の増えた月において、冒頭の科学技術に縁のある男女が解決策に迫っていく。月世界の描写もなかなか読みごたえがあるが、個人的にここで気に入ったのは主人公となる男女の穏やかなラブロマンス。年齢設定が絶妙で、オジさんの有能なのに頼りなさげにみえる感じや、一筋縄ではいかないヒロインの性格も魅力的だ。ラストの1ページはまるまるメモに残した(笑)。最後の1行も最高に好きだ。

高度なSF設定の中でみせてくれたのは“愚昧”な人間たちの実像。神には遠く届きそうにないが、とりあえずは人間を頑張ろうと思えた読後感に満足。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月18日
読了日 : 2023年10月5日
本棚登録日 : 2021年10月29日

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