エンディミオンの覚醒 上 (ハヤカワ文庫 SF シ 12-7)

  • 早川書房 (2002年11月1日発売)
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感想 : 18
5

『エンディミオン』に続くシリーズ第四弾。オールドアース到着の4年後、エンディミオンの新たな冒険が始まる。

前作までの大冒険の末、たどり着いたオールドアースにて4年を過ごした一行。少女アイネイアーが12歳から16歳へ成長する姿を見守っているのかと思ったら、いつしか弟子のような立場になってしまっているエンディミオン。やがて人類の救世主として立つべき彼女の存在感は圧倒的なものになっていた。互いに惹かれあいながらもまだ男女としての関係がはっきりしないまま、エンディミオンは一人での旅立ちを命じられる。

今度は一人で冒険することになり、前作のような転位をしつつ、これまで以上にとんでもない目にあう。ネタバレは避けるが、あの痛みの正体があんなものだったとは……リアルすぎる(汗)。さらに満身創痍になってボロボロになるエンディミオン君が心配になる。

一方、引退したデ・ソヤ神父大佐が呼び戻され、前作での失態を許されて戦線に復帰するものの……。パクス軍は一枚岩ではなく、その周辺の組織も含めて謀略の限りが尽くされるあたりが読みどころ。

仏教世界を再現した〈天山〉でのアイネイアーの説教はまさに哲学。作者はもともと途方もない博学なのだろうけれどアメリカ人なので、東洋の哲学や仏教については本当によく勉強したものだと思う。愛の力が、強い力、弱い力、電磁気力および重力に並ぶ、宇宙の力の一つなのだという発想が面白い。AIに宿る魂とキリスト教の教義を兼ね合わせた、つまり科学と宗教、SFとスピリチュアルの融合された論説が本作の魅力の一つだろう。

ナノテクノロジーの展開とアウスターの正体についても衝撃。AIと人類の「共進化」という関係について言及されるあたり、1997年刊の本作は今こそ読み直されるべきテーマを語っていると思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月8日
読了日 : 2023年5月18日
本棚登録日 : 2021年4月24日

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