増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫) (文春文庫 フ 1-4)

  • 文藝春秋 (2003年4月10日発売)
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ユダヤ人迫害下における隠れ家生活を、思春期の少女のみずみずしい感性で筆記した日記文学。ユネスコ世界の記憶。

ホロコーストの悲劇を象徴する一冊として有名なので、大体の概要は知っていたが読むのは初めて。
13歳の誕生日に父から贈られた日記帳にキティという愛称をつけ、友人として語りかけるように日々の生活をつづっていく。作家志望だったアンネは、最初から出版を意識して、推敲した清書版も書き残していたとのこと。冒頭の学校生活の描写から非常に鋭い人間観察力を発揮しており、13歳の文章にしては天才すぎると驚いた。

隠れ家という狭い世界の中で、母親への反抗心や恋愛感情など思春期特有の悩み、迫害や戦争への恐怖、人生と世界に対する俯瞰したものの見方などが、みずみずしい筆致で書かれている。10代において誰しも一度は考えるようなことが、卓越した視点と優れた文章で書き綴られていて、自分がティーンズの女性だったらきっと愛読書になっていただろうと思わせる内容だ。本書においてよく言及される「性」に対する描写も、素直で赤裸々な態度で好感がもてた。

いっぽうで本書はユダヤ人迫害の実情を知る上でのリアルな資料でもある。戦争の本質を鋭く捉えた日記の内容は、その後の本人の結末も含めて、今日の私たちに深い感動と決意を呼び起こす。悲惨の記憶として、また思春期の文学として、永遠に読みつがれるべき一書。


P86 とにかく、これでひとつ勉強しました。ほんとうに他人の人柄がわかるのは、そのひとと大喧嘩したときだということです。そのときこそ、そしてそのときはじめて、そのひとの真の人格が判断できるんです!

P487 戦争の責任は、偉い人たちや政治家、資本家にだけあるのではありません。そうですとも、責任は名もない一般の人たちにもあるのです。

P365 わたしは、どんな不幸のなかにも、つねに美しいものが残っているということを発見しました。それを探す気になりさえすれば、それだけ多くの美しいもの、多くの幸福が見つかり、ひとは心の調和をとりもどすでしょう。そして幸福なひとはだれでも、ほかのひとまで幸福にしてくれます。それだけの勇気と信念とを持つひとは、けっして不幸に押しつぶされたりはしないのです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年12月14日
読了日 : 2023年10月26日
本棚登録日 : 2023年10月19日

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