ジェイン・エア(下) (光文社古典新訳文庫)

  • 光文社 (2006年11月9日発売)
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感想 : 40
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19世紀英国。女性としては際立つ矜持や自立心の故に困難の絶えないジェインは、身分を超えた愛情を育むが……。

多くの困難を越え、ようやくソーンフィールド邸という、穏やかな環境に身を置くことができたジェイン。ロチェスターの求婚までに至るまわりくどさと、グレイス・プールをめぐる秘密に翻弄される流れは、めんどくさい男だなと思いつつも、文章や演出の上手さと彼の人柄がよくわかる筋の運び方という点で納得しながら読んだ。

結婚が決まったときのミセス・フェアファックスのいっけん冷たい態度も、最初はジェインと同じく戸惑ったが後から考えると納得。

逃げ出したあとの放浪してどの家からも受け入れられないときのジェインの、誇り高さと自己肯定感の低さが同居しているような感情には、どこか共感するものがあって胸が痛かった。

セント=ジョンの厳しすぎる使命感には辟易。若さゆえの融通のきかなさがよく表現されている人物だと思う。しかし、ジェインが真実の愛に気づくために必要な経験をもたらしてくれた。

突然親族の財産が転がり込むお約束的なものや、精神が感応して聞こえないはずの呼び合う声が聞こえてしまうというエピソードは、現代の我々にはベタではあるが自分は好きだ。

魂では深く結びついている二人なのに、あのタイミングでうまく結ばれなかったのは、お互いに試練を越えて磨かれなければならない部分があったからだと、構成の巧みさに舌を巻いた。ロチェスターは高価な宝飾や服など価値がないと悟り、粗雑で高圧的だったところもすっかり角が取れている。ジェインもまた、多くの苦難とセント=ジョンとの件を越えたからこそ、彼のすべてを受け入れることができたのだと思う。

「どうなっちゃうのこれ!?」とヤキモキする展開がずっと止まらない本作。最後には、失って得るもの――二人の魂の成長を読者も実感できるような、見事な着地に拍手喝采。自立した女性の話というだけでなく、素晴らしいラブストーリーだからこそ長く愛されるのだろう。小説本編以上に興味深いブロンテ姉妹の経歴にも注目したい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月14日
読了日 : 2022年11月12日
本棚登録日 : 2022年10月28日

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