ウエハ-スの椅子 (ハルキ文庫 え 2-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所 (2004年5月1日発売)
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感想 : 360
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女だなぁ、と思うとともに、女のこの心の機微を表現してくれる江國さん本当にすごいなぁと。

ラブラドールのジュリアンが愛情の扱い方をきちんと心得ていること。それは他の誰のものでない自分の意思である場所にいて他人からの愛情を過信せず受け取れること。誠実でいること?それに反して、読んでいると主人公は途方に暮れ飼い主の帰りを待つ茶色の犬と似ているというのはなんか分かった。

主人公と恋人の会話や仕草がぴったりで、お互いがお互いの思っていることが分かりながら会話をしている戸惑いやいらつきがない感じ。でも甘すぎてどこか綺麗すぎて。だから夢みたいなんだなと。最後にジントニックを恋人に掛けた時からやっと崩れる。

「私の恋人は完璧なかたちをしている。そして、彼の体は、私を信じられないほど幸福にすることができる。」
「死は、残った者たちの新しい生活をつくる。」
「男たち。〜得体の知れない思考と幸福な体温を持ち、芳しく、骨ばった生き物。」
「かくということ、それは、閉じ込めることよりもむしろ解き放つことに似ている。」
「それはほとんどゆるやかな自殺のようだ。彼は私を愛している。私はそれを知っている。私は彼を愛している。彼はそれを知っている。私たちはそれ以上なにものぞむことがない。終点。そこは荒野だ。」
「私が学んだ数すくないことの一つに、ひとはどんなふうにでもあれる、ということがある。私たちは、だからどんなふうにでもキスをすることができる。昏倒せんばかりの愛情をこめてすることも、すすり泣くようなせつなさですることも、あるいはまた、たとえば天津甘栗をつまむほどの気安さで、ふいにかるがるとすることも。」
「何の過不足もない、ということは、それ自体何かが欠落しているのだ。」

作家が自作の中で1番気に入っているものは、と聞かれたときつねに最新作だと答えることが、そうであるべきなのではなく、そうでしかあれない。恋愛もそう?

一緒の小説を読んで2人が読み終わったら感想について話すのよいなぁ。そんな相手がほしい。
妹と両親の墓参りに行くシーン好き。

人生は荒野で道はないけれど、みんなが通ってしぜんについた、歩きやすいけもの道はある。でもせっかくけものに生まれたのなら自分でけもの道をつけたいと、主人公は思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月10日
読了日 : 2024年2月10日
本棚登録日 : 2019年7月9日

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