歌うカタツムリ 進化とらせんの物語 (岩波現代文庫 社会341)

著者 :
  • 岩波書店 (2023年7月14日発売)
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感想 : 8
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生物学に関する知識も、カタツムリに関する知識もほぼ無で読んだため、また、私の記憶力にかなり問題があるため、次々と登場する学者名と、学説をほとんど覚えられないまま読んでしまい、学術的な意味では全く身にならなかったが、それでもなお、学者間での論争や、師弟関係や、繰り返される適応主義と、浮動説の攻防は、とてもドラマティックで、普段全く関わりのない世界の裏側が見られたようで、面白かった。
また、ダーウィンの進化論についてや、メンデルの法則について、自分がかなり間違った解釈をしているということが理解できた。
私が学んだ時はまだ、優性遺伝、劣性遺伝と言っていた(まだそうなのかな?)こともあり、どうしても、遺伝子には優劣があるというイメージや、進化に際して、環境に適応できたものだけ、強いものだけが生き残ったのではないか、というイメージを持ってしまっていたが、実際には、今日言われているように、遺伝されやすい=顕れやすいだけで、遺伝形質に優劣はない(今は表記も顕性/潜性が推奨されている)こと、また、進化において適応だけが全てではない、という論争は繰り返し起きており、また、環境適応や、捕食者と非捕食者の関係においても、絶対的な強者というものは存在せず、バランスの取れた生態系が育まれるのだ、ということが理解できた。
またそうした、バランスの取れた生態系が、人間の介入によって簡単に崩壊してしまうことも、示されている。
この本を読んで、現代これだけ技術が発達した世界にあっても、まだ生物それぞれの進化について、完全に解き明かすことはできていないこと、また、生物の生態系の複雑さは、捕食、非捕食、環境など、解き明かしきれないほど多くの要素によって形作られており、どれだけの計算を尽くそうと、そこに手を加えて一種を取り除こうとしたり、他の場所に持ち出したりすれば、必ず計算外のことが起きてしまう、それだけ、絶妙なバランスが働いているのだということも頭に叩き込まれた。
何度となく繰り返される失敗に加担することのないよう、この複雑な自然と、そこに生きるすべての生命に対する敬意だけは、忘れずにいたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月22日
読了日 : 2023年8月22日
本棚登録日 : 2023年7月27日

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