ベーシックインカムの祈り (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2022年10月20日発売)
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感想 : 20
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以下はただの私見ですが。

SFが重要な要素となる1~4話はいわば最後の章の「前振り」なのかなと。
最終話で作家である「私」が書いた作品が入れ子式に登場してくる。しかしその内容はAIやVRといった題材こそ同じものの、内容は大きく異なり、かなり絶望的な内容であったよう。わが身に降りかかった不幸、そして追い打ちをかけるように直面した恩師の「裏切り」。それらが「私」にそのような本を書かせた。
しかし教授が自ら呼んだ警察に連行される時に云った言葉で「私」は悟ることになる。教授は何も変わっていなかったと。
そして進化する技術が人間をより豊かにする世界を祈った。

おそらく1~4話はその後の世界を描いたフィクションなのだろうと感じた。それは祈りの先の世界ほど明るくはないが、「私」の想定ほど絶望的でもない。とても「現実的」なものにも感じられた。

ここからは余談。

参考文献にルドガー・ブレグマン著の「隷属なき道」が紹介されていた。
のちに「Humankaind 希望の歴史」を書く人とは知らず読んだベーシックインカムについて書かれた本だ。
ベーシックインカムについては左右いろんな人が言及している。ブレグマンから小池百合子、果ては竹中平蔵まで。
日本では弱者に冷たく労働者をシバキあげる系の人たちがベーシックインカム導入を云っている印象がある。確かに人の善意を前提に制度を設計してしまうと早晩破綻してしまうのだろうけど、不正を働いても「割に合わないという、人の経済合理性」(p265)が機能すれば、それこそ現実的な選択肢の一つではないかなとは思っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年2月9日
読了日 : 2023年1月31日
本棚登録日 : 2022年12月6日

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