続氷点(下) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2012年7月25日発売)
4.08
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本棚登録 : 1499
感想 : 98
5

上巻は、『氷点』の最終盤での騒動の直後という情況から物語が起こる。そして時間が少し経過し、『続 氷点』の鍵になる「三井家の人達」が登場するようになる。
下巻では、血の繋がらない兄の徹と、兄の友人ということで知り合って親しくなった北原との間で揺れていた陽子、そして「三井家の人達」を巡る挿話が多くなる。
『氷点』は陽子が成長する過程の子ども時代が相当に入るのに対し、『続 氷点』は陽子が既に高校生や高校卒業後、或いは大学生である。それ故に「陽子の目線」という部分が多い。
『氷点』の最終盤で陽子は高校2年であるが、『続 氷点』の中では大学生になっている。数年経っているということになる。そういった事情を踏まえ、<見本林>が在って、辻口邸が建っていることになっている神楽や旭川の街での挿話に加え、札幌での挿話も少し多くなり、加えて作中人物達が旅行に出るような場面も在る。
作中、作中人物達が色々と行動する中、東京方面への旅行に飛行機が登場する、蒸気機関車が牽引する客車が専らだった中にディーゼル機関車やディーゼルカーが散見している様子が登場する、更に自家用車を使う例も色々と出て来る。そういう辺りに、「昭和40年代前半頃」という「色々な意味で様子が変わっていた時代」を想った。
時代が如何変わろうと、結局「人間」は然程変わらないという一面も在るのかもしれない。故に、本作のような、発表されてから相当に年月を経ている小説が読み継がれているということなのかもしれない。
「秘めてしまっている悪意がもたらす何か」という人生模様、「悪意」たる「罪」というようなモノと向き合わざるを得なくなって行き、心が凍て付く思い(=氷点)を経験することになる陽子というのが『氷点』だった。これに対して「悪意」たる「罪」を「償う」とか「赦す」というような道筋を見出そうとする劇中人物達を描くのが、この『続 氷点』ということになるかもしれない。
やや旧い作品で、既に読了という方も多いとは思う。が、自身が極最近迄未読であったことから、未読の方も多いと想定する。そこで内容に踏み込み過ぎないように綴っている。
作品内容と直接的に関係は無いかもしれないことを加えておく。偶々、三浦綾子作品を何作か読んで興味深かったことから、『氷点』と『続 氷点』の「辻口邸」の辺りということになっている<見本林>、その辺りに在る<三浦綾子記念文学館>を訪ねる機会を設けることが叶うという出来事が在った。旭川を訪ねた折りに時間が在ったので、訪問機会を設けたという訳なのだが、作家の作品や人生を広く深く紹介する文学館も興味深く、晩秋の好天という中で散策した<見本林>も好かった。
『氷点』は独立して完結はしているが、『続 氷点』をも加えて、「昭和20年代の初めから昭和40年代半ば近く」の20年間程を描く“大河小説”という体裁に纏まっていると言えるのかもしれない。発表されて半世紀以上を経て読み継がれる「古典」である。自身は極最近迄読んでいなかった。が、読んでみて「広く御薦め!」と思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 三浦綾子 作品
感想投稿日 : 2023年11月8日
読了日 : 2023年11月8日
本棚登録日 : 2023年11月8日

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