ドイツ誕生 神聖ローマ帝国初代皇帝オットー1世 (講談社現代新書)

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  • 講談社 (2022年11月17日発売)
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感想 : 11
5

現在のドイツやイタリア、更にフランスやスペインも少し入るような欧州の“中世”、日本史で言えば平安時代の半ばに相当するような10世紀の様子を背景に、合戦や謀略や政治的駆け引き、近親者間での愛憎や争い迄と、実に色々と在る群像のドラマが展開するような物語であった。壮大な大河ドラマが展開するという内容で非常に面白かった。
オットー1世(912‐973)が本書で語られる物語の主人公に据えられている。「ローマ教皇による戴冠で即位する“皇帝”」という概念はカール大帝(742?‐814)が創ったとされる。そのカール大帝が開いた帝位の伝統が途切れ、約40年ぶりにオットー1世は「ローマ教皇による戴冠で即位する“皇帝”」となった。そして後に<神聖ローマ帝国>と号することになる“帝国”を拓いたとされる。(同時代の、また御本人の認識としては「カール大帝の後継」であって、<神聖ローマ帝国>と号する存在が確立するのはもっと後、13世紀頃のようだ。)
本書はこのオットー1世の事績と時代を語る内容だ。そして御本人や同時代人が然程意識していなかったにせよ、現在の“ドイツ”という概念、そういうように呼ばれる版図の礎を築いた側面も在る。故に本書の題名に「ドイツ誕生」と在るのだ。
カール大帝が築いたフランク王国は、当時の「財産」としての領土や王権に関する理解、加えて相続の慣行により「分国」になって行った。大雑把に、現在のフランス辺りの西フランク王国、ローマ以北のイタリア辺りの中フランク王国、ドイツ辺りの東フランク王国に別れた。そして各王国内に色々と事情が在った。各王国は有力な大公の公国の連合体のような様相も呈した。
オットー1世はこれらの中、東フランク王国の王家の出である。父の代迄に東フランク王国は集権的な体制の礎を築き、「分国」になって行くような相続方式を改め、オットー1世が東フランク王国の王位を単独で引き継ぐというような体制を造った。そういう条件下、オットー1世は大公の公国の連合体のような様相を、「王に一定の権利を認められた伯爵が集まる封建制度の王国」という様相に替えて行き、更に当時の学識者で、文書作成等に通じた聖職者を行政官、官吏とするような体制を築いて行った。そういう動きの他方、異母兄、弟、息子と近親者が反乱の旗頭になるというような事態が繰り返し発生する。加えて、子女が次々に夭逝するという不運も相次いでいた。
それでも、オットー1世は東フランク王国で強力な権勢を有する体制を築いて君臨し、ハンガリーやスラブ系の諸族との争いでも優位に立つようになり、西フランク王国にも影響を行使するようになり、イベリア半島のイスラム勢力やビザンツ帝国との外交等も展開して行く。加えてイタリアに関しても、長きに亘っての争いを制し、やがて「ローマ教皇による戴冠で即位する“皇帝”」となって行くのだ。
オットー1世が軍勢を率いてイタリア方面に何度も押し出した経過の中、「“民衆語”とやらを話す連中が…」とイタリアの人達が彼らを他称した訳だが、それが「ドイツ」という概念の起こりと見受けられるらしい。「ドイツ」という語の基礎となるのは「民衆の」という表現であるという。そういう意味で、オットー1世は「ドイツ」という概念を産み出すような動きを起こしたと言い得る訳だ。
オットー1世の時代の後、ドイツの有力な王が「ローマ教皇による戴冠で即位する“皇帝”」となることが繰り返された。そしてイタリアに遠征するというようなことが重ねられた。他方、遠征に従軍するドイツ各地の伯爵達の伯爵領での権益が従軍の見返りに強化されて行く。こうしてドイツ語圏の色々な様子が何世紀にも亘って作り上げられることになる。その「起こり」はオットー1世の時代と言い得る。そういう意味でもオットー1世は「ドイツ誕生」の鍵となっているのかもしれない。
個人的には、嘗て自在に列車に乗降可能な“レイルパス”を手に欧州諸国の各地を巡った中で、ドイツを東西南北に様々に動き回った思い出が在る。そういう時期に通り過ぎた記憶が在る地名が沢山出て来るのが本書だ。当然、オットー1世の時代に鉄道は通っていないが、本書に在る地名で思い出して、「東へ進んだ…南へ進んだ…そして北側…」と位置関係を思い出していた。現在に迄、その地名が伝わる辺りや、地域間を結ぶ街道のようなモノや街の様子も想像し悪いような時代に、愛憎、謀略、野心に溢れる人達が展開したドラマを思い浮かべながら、少し引き込まれながら本書を愉しんだ。
高校2年の時に履修した世界史で、「オットー1世」という名は在ったような気もする。が、本書のような「凄いドラマ」の主人公とは思わなかった。自身が高校生だった頃の世界史は、何となく「極々大雑把な経過」と「極めて知名度が高い用語」とに終始する感じだった。そういう意味で、もう少し「人々のドラマ」というのか、判り易い形で「産業や文化活動の変遷」というような事柄が入り込む余地が大きい気がした日本史がより面白いと思い、高校2年の時の2科目と違って1科目を択ぶことになった高校3年の時は、日本史を択んで履修した。序でながら、大学受験の選択科目も日本史にしたのだった。ということで、本書のような本に時々出くわし、世界史を復習または「改めて学ぶ」というようなことをして何年も過ごしている気がする。
こうした「世界史関係の話題」というのも、時には凄く興味深いモノだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2023年2月26日
読了日 : 2023年2月26日
本棚登録日 : 2023年2月26日

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