潜水服は蝶の夢を見る

  • 講談社 (1998年3月5日発売)
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本棚登録 : 535
感想 : 83
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たまにはブグログによる”あなたへのおすすめ”に従ってみるかなと、手に取った一冊。

有名なノンフィクションですよね。映画にもなったのかな。

ファッション雑誌「ELLE」の編集長、ジャン=ドミニック・ボービーは、43歳の若さで脳出血を起こし、ロックトイン・シンドロームと呼ばれる、日本語でいえば「閉じ込め症候群」に陥ってしまう。
意識ははっきりしているものの動かせるのは左目の瞬きだけ。
後にリハビリでわずかだが首も動かせるようになったとか。
【体じゅう、重たい潜水服を一式、着込んでしまったようなのだ。】と書かれている。
本書は、20万回以上の瞬きによって綴られた当人の手記である。

当人の資質によるものか、フランス人気質というのもあるだろうが、こんな状態にありながら愚痴や不平不満はほとんどない。凄いね。
文章も洒落ているな。

 テオフィル(十歳の息子)は、紙ナプキンを何枚も使って、閉じた僕の唇から流れ出る涎を、そっと拭いてくれた。やさしく、でもおっかなびっくりで。どんな反応が返ってくるかわからない動物を、前にしているかのように。
 彼らの母親が押していた車椅子が、ゆっくり止まった。すると今度はセレスト(八歳の娘)が、むき出しの腕で僕の頭に抱きつき、そのまま額に、キスの雨を降らせ始める。呪文でも唱えるように、繰り返し「あたしのパパ、あたしのパパ」と言いながら。

 黒々としたハエが一匹、僕の鼻の頭に止まる。そんなところからは下りてもらおうと、僕は顔を振ろうとする。しかしそれが、僕にとっては、オリンピックのグレコ・ローマン・スタイルのレスリングにも勝る、死闘となっていく。
今日は日曜日。


彼の著作のおかげで、いわゆる植物状態というか、肉体の自由は効かなくても、意識は正常を保てるというのがわかったのは大きいと思う。

フランスで大ベストセラーになり、28ヵ国で出版された本書。
しかし、残念ながら、フランスでの出版のわずか2日後に著者は亡くなってしまう。感染症による合併症を起こして。

出版された自分の本は見れただろうか。
もっともっと書きたかったろうな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月25日
読了日 : 2024年3月25日
本棚登録日 : 2024年3月25日

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コメント 9件

ゆーき本さんのコメント
2024/03/25

意識があるって怖くないのかな?
娘ちゃんの行動に胸がギュッとなるね( ߹ㅁ߹)

ゆーき本さんのコメント
2024/03/25

てか あなたへのおすすめ見るの好き!
私は「心の野球 桑田真澄」をおすすめされてる笑

1Q84O1さんのコメント
2024/03/25

すごい!その一言に尽きます!

yukimisakeさんのコメント
2024/03/25

これ映画で観ました!
フランス独特の静かさで、芸術でしたが、本だとより切なさそうですね。

今、あなたへのオススメ見に行ったんですが…何故か全部BLで埋め尽くされてました…笑

1Q84O1さんのコメント
2024/03/25

ユッキーさん
埋め尽くされている…
そりゃそうでしょ!

bmakiさんのコメント
2024/03/26

苦しそうなお話ですね。。。
感情移入し過ぎて身動き出来なくなりそうな予感がします(-。-;

私へのおすすめ本は、全く読みたいと思ったことが無い本がずらりと並んでいますが、伊坂幸太郎先生が多めでした(-。-;

苦手だとあれほど言ってるのに。。。

yukimisakeさんのコメント
2024/03/26

1Qさん、魔界水滸伝のせいな気がします!笑
でもあれはBLじゃない…とも言い切れない…笑

kuma0504さんのコメント
2024/03/26

「魔界水滸伝」でBLって‥‥。
で、自分のおすすめを見直したら、流石上橋菜穂子、ノンフィクションとフィクションが半々。
でも、既に読んでブクログにも登録している本が6/40冊もある。電子版とかですけど。多分、アルゴリズムとかなんとか、その人の読書傾向を、計算式でだしてるんだろうし、今更気持ち悪いとか言えないけど、なんだかなぁ、と思う。

あ、土瓶さん、無視してごめんなさい。
植物人間に実は意識あったという話は、テレビでよく紹介されていますよね。ということはニュースバリューがある事で、殆どは意識ないという事なんだろうな。家族の心労は如何ばかりか。
でも多分、新石器時代に不具者が生涯を全うできた様に、彼らが生かされているのは、なんらかの意味があってのことだと思うのです。

土瓶さんのコメント
2024/03/26

実はね、俺の父親も似たような状況でした。
脳出血で倒れてしまい、動かせるのは首から上と両手をほんの少し。
体内の酸素濃度が低いために喉を切開されてそのまま固定されているので声も出せず、食事も摂れません。
あるとき、調子のよかった時に、意思の疎通を試みようとしてマジックを持たせて紙に書いてもらったことがあります。
ぷるぷると震える手で、ミミズののたくったような文字が四つ。
俺には「こ ろ し て」と書かれたように思えました。
でも怖くて「殺して欲しいのかい?」とは、訊き返せませんでしたねー。
だって、そこで頷かれたら。
「とうさん。これなんて書いてあるのかさっぱりわからないよ」
そうごまかして「ちゃんと動けるようにしようね」と、手のマッサージをするので精一杯でした。
でも、とても苦しそうだったからなー。
ああなったらどんなに苦しくても自殺すらできないだろうから。それが不憫で。
俺にもう少し勇気やら根性やらがあれば、たぶん首を絞めて殺してあげてたと思う。
もう亡くなったけど、今でも少し後悔してる。
誰にも家族にも言ったことのない秘密です。
そんなこんなでこの本を借りました。
他の人はどうなんだろうって。
でもこの著者はまったく死にたいなんて言わないんだよな。凄いなー。
まあ年齢も性格も違うけど。
ということでみなさん。脳出血には気をつけようってことですよ。
でも俺も血圧高いからやばいんだよなー。塩気のある物好きだし。油物も。

ああ、暗ーい独り言みたいになったからレスは不要で。

はい。ご唱和ください。
脳出血には気をつけよう!!(笑)

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