憲法九条を世界遺産に (集英社新書)

  • 集英社 (2006年8月12日発売)
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感想 : 262
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■2006年9月読了
■解説分
実に、日本国憲法とは、一瞬の奇蹟であった。それは無邪気なまでに理想社会の具現を目指したアメリカ人と、敗戦からようやく立ち上がり二度と戦争を起こすまいと固く決意した日本人との、奇蹟の合作というべきものだったのだ。しかし今、日本国憲法、特に九条は次第にその輝きを奪われつつあるように見える。この奇蹟をいかにして遺すべきか、いかにして次世代に伝えていくべきか。お笑い芸人の意地にかけて、芸の中でそれを表現しようとする太田と、その方法論を歴史から引き出そうとする中沢の、稀に見る熱い対論。宮沢賢治を手がかりに交わされた二人の議論の行き着く先は…。
■感想
僕自身、マスコミに身を置きながらこれまで「政治」に対して傍観者の域を出なかった。憲法が自分と関ってるという考えもまるでない、だらしない日本人である。正直、政治に関して知識がないから『苦手』というかごの中に入れてしまっているのだろう。それを選挙の前には、外から中を眺め・・・世の中の風潮を伺い、知ったかぶりをし、一般的な日本人の思想からはみ出さぬように生きてきた。

それをこの本は見事に肯定してくれた。

いや、肯定してくれたというとあまりにも自分勝手な解釈であるが、それでもいいじゃん!という思いにさせてくれたのである。

僕は太田光という人物が大好きである。一緒に仕事をした経験もあり、心から尊敬している。この本を読むと、太田さんの思考の深さに、ただただため息が出るばかりである。僕なんかの稚拙な思考とは天と地ほど離れているし、本当に落ち込む。落ち込むと書くと、何を張り合ってるんだと思われるかもしれないが、まあ、そこは些細な向上心としてお許しいただきたい。

しかし、この本は落ち込ませるだけでなく、こんな僕でも何か出来るんじゃないかという気にさせてくれるのだ。恥ずかしがって言わない意見よりも、間違った意見でも必要なんだ。議論が戦争に対する抑止力になっているんだと言及してくれる。とても気が楽になった。

この本から想像する太田さんは、日本という大地にたったひとり歯を食いしばって立っている。自殺が減らないのは世の中に感動するものが自分自身の芸が未熟だからと言い放つ。

「 若い人たちが、自殺サイトで死んでいくのも、この世の中に感動できるものが少ないからなんでしょう。それは、芸人として、僕らが負けているからなんだと思うんです。テレビを通じて、彼らを感動させられるものを、何ら表現できていない。極論を言えば、僕の芸のなさが、人を死に追いやっているとも言える。だとしたら、自分の感受性を高めて芸を磨くしかないだろう、という結論に行き着くわけです。 」(pp154-155)

話は、桜、落語や武士道、テリーギリアム、そしてSMAPまで多岐に渡るが、それを憲法や平和思想とぴしゃりと落とし込む話芸は見事としかいいようがない。(特に「桜」と「死」に関するくだりは恐ろしくもとても美しい。)
憲法九条が世界遺産という飛躍したテーマに至ったかは、是非ご一読いただきたい。きっと納得のゆく結果がここにあるでしょう。

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感想投稿日 : 2009年5月8日
本棚登録日 : 2009年5月8日

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