- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784757123045
作品紹介・あらすじ
世界経済の「格差問題」を歴史的視点で解き明かす。オクスフォード大学の経済史の第一人者が放つ「グローバル経済史」入門の決定版。
感想・レビュー・書評
-
本書は、産業革命以降の多くの国々が高度な成長を獲得する中で、アフリカや南北アメリカなど成長に失敗した国の何が問題であり、どう違っていたのかを総括的に考察するという壮大なアイデア満載の本である。
「GDP」「労働者の生存費に対する所得比」「ロンドンと北京の実質賃金比」などの多くのデータを駆使しつつ、成長の過程を類推する手法は、合理的とも言えるし、それなりの説得力もあるが、本書は読みにくいとも感じた。
この読みにくさは、著者の論理にあるのか、それとも翻訳のせいなのか。
それぞれの国の経済成長が、各国の置かれた経済条件のみならず、文化的・歴史的条件に規定される以上、数字的データのみを持って、論理的に断定することは困難なのではないのかという疑問も持ったが、「グローバル経済」というものが既にこのような世界的考察をしなければならない段階になっているという現実を突きつけられるようにも思えた。
それにしても、本書の考察で目を引いたのが「アフリカの部族社会」と「日本のビッグプッシュ型工業化の終焉」である。
アジアの停滞ではかつて「儒教」の影響が語られたことがよくあったが、本書では、アフリカにおいては「国家は人種差別の排除には成功したが、部族性の排除はそれほどうまくいかなかった」と考察し、「アフリカがその歴史から逃れることは容易ではない」と結論する。
最近のアルジェの事件や不安定化するアフリカを見ると、グローバル化のもとで一層悪化するアフリカの政治情勢は、今後乗り越えることができるのだろうかとの疑問を持った。
また本書では「先進国は世界の技術フロンティアが拡大するのと同じ速さでしか成長できない。つまり毎年1.2%の成長しかできないということである」と断定している。
この結論は最近の別の「経済書」でも散見する見解である。それぞれ別のアプローチからの結論が一緒ということは、日本は今後「低い成長」を前提とした社会構成を目指さなければならないのだろうか。そうならば、安倍政権は「見果てぬ夢」を追いかけていることになるのだが。
本書は、読みにくさはあるものの、読者に多くのことを考えさせてくれる良書であると思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「大いなる分岐」がなぜ起きたのか、それが現代までどのような経過をたどったのかを、経済学の最新の知見を元に著した、コンパクトだけれどもガチの経済学・歴史学の書。
「大いなる分岐」については、ケネス・ポメランツの「大いなる分岐」(未邦訳)から大きな研究の流れができ、「10万年の世界経済史」などが書かれている。
「大いなる分岐」の問題提起は、おおよそ、
・18世紀以後、一人あたり賃金が最低生計費を上回る状況が歴史上はじめて生まれ、拡大していったのはなぜなのか
・それによって起きたことはなんなのか
・それによって起きることはなんなのか
、である。
本書でも、その点を、様々な推察を重ねて要因を洗い出す。
ポイントは、資本蓄積とエネルギーコストと賃金水準。
大雑把に言えば、経済が拡大するためには資本投下による機械の発明と改良、工場の建設と運用などが必要。それはエネルギーコストが低く、賃金水準が高くないと起きない。
エネルギーコストが高いか、賃金水準が低ければ、機械化は高コストになり利益を生まず、低賃金の労働者を使ったほうがコスト削減となるからだ。
また、低賃金の労働者は十分な教育を受けられないし、その子弟にも受けさせられず、どうしても単純労働しかできないため、「貧困の罠」にとらわれてしまう。
まず最初に、イギリスで、産業革命以前にこの条件が整った。そして、製造した商品ー綿製品ーを販売する市場が、大航海時代のフロンティアの発見と、航路による輸送コストの削減で広大に広がったことにより、機械化への投資が継続して促進され、イギリスは最初の「産業革命」の国となった。
その後、1820年台にはアメリカやドイツが高賃金低エネルギーコストの条件でイギリスを抜き、工業国としてのヘゲモニーを握った。
第一次世界大戦はドイツの鉄鋼業がイギリスを抜き、それにより軍事産業が肥大化したことで生まれた緊張から生じたものだった。
以上、5章まで。
6章以降は、南北アメリカ、アフリカ、開発の標準モデル、ビックプッシュ型開発、というトピックで、各国の経済がどのようにして発展or低状態の維持をしてきたのかを、経済的な要因から論じていて興味深い。というか、それらは独立して読んでも十分意味がある。
ビックプッシュ型工業化の章では、第二次大戦後、日本などがアメリカなどの先進国に追いつくため、産業の基礎である鉄鋼業を発展させると同時に、鉄鋼を使う自動車産業を発展させるといった、本来順繰りに発展していく工業化のプロセスを同時並行的に進めたーこれをビックプッシュ型工業化というーために、非常に高い水準で毎年の経済成長を成し遂げ、アメリカに追いつくまでになった経過を振り返っている。
そして、そのような経済成長は、モデルとなる先進国があったから出来たことで、すでに追いついてしまった今は、これまでの経済成長をどのように行えばいいのか、世界中の先進国がその答えを見つけられないでいる。
中国が今後も数年間発展していくのは確実で、その後はインドがそれに続くだろうが、やはり自国の工業化が「完成」したら、それまでの急速な経済発展は難しいだろう、と、本書では考えているようだ。
そして、中国が先進国並みの経済成長を遂げることで、「15世紀の状況にもどる」というーつまり、産業革命の前後で起きた各国の豊かさの度合いがフラット化するということだ。
その後、どうすればいいか。世界は答えが出ていない。
経済成長はエネルギーの枯渇や二酸化炭素による環境の激変など、単なる成長では解決しない問題も引き起こしていて、これも解決は即急に求められているが、だれも明快な答えを持っていない。
世界は模索している、というところで本書は終わる。
正直難しい。薄い本だから最後まで読めたが、読みながら湧いてくる疑問に答えられる紙幅がなく、ここからさらに学ぶことが求められるのだろう。
賃金水準の上昇は法則的なものなのか、イギリスの例のように、地代を税として取り立て、その循環で労働者が潤い、高賃金になったという、偶然的なものが連鎖しているだけなのか、例えばそんなことがわからなかった。
アフリカの章は懇切丁寧で、「経済大陸アフリカ」に直接繋がる話でもあるので、まとめつつ、他の書籍もあたってみたいと思った。 -
経済史版の『銃・病原菌・鉄』だというのをどこかで聞いて興味を持った。短くまとまっていて、タイトルにも忠実。
制度や文化、地理的要素が背景として重要ではあるが、それより「技術変化、グローバル化および経済政策こそが、経済発展の直接的な原因であった」というのが本書の立場。そして出発地点のわずかな差が、のちのち大きく響いてきたということも。
まずさいしょの分岐となるのが、産業革命への準備が整っていたかどうか。産業革命前夜、大航海時代にイギリス(とオランダ)は植民地との交易により経済を繁栄させ、商業・製造業の礎をつくった。都市化と農村工業化がすすみ、高賃金経済が教育の投資価値を向上させた。賃金が高いからこそ、割安なエネルギーと資本を使って賃金を節約するような技術が採用され、イギリスに産業革命が起こったのだと著者は説明する。
たとえばなぜアメリカ南部が奴隷に頼り、北部で工業化がすすんだのかも、これで説明できる。奴隷制を採用するかどうかに重要なのは、モラルではない。農業プランテーションが可能な南部では奴隷がワリに合い、北部ではワリに合わなかったからなのだ。
一方、サハラ砂漠以南のアフリカが産業革命の準備ができていなかったのは、「先進的な農耕文明」ではなかったことに原因があると説明される。先進的な農耕文明は、財産の保証、読み書きや計算の能力、官僚などさまざまなものを準備する。世界のおもな地域でこれらを準備できたのは、西ヨーロッパ、中東ペルシア、インドの一部地域、中国、そして日本のみであり、それらの国々は産業革命が生じうる状況にあった。
つぎの分岐となるのが、「工業化の標準モデル」。(1)内国関税の撤廃と輸送の改善により大きな国内市場を創出すること (2)対外関税を設定し「幼稚産業」をイギリスとの競争から保護すること (3)通貨を安定させ、事業に資金を供給する銀行を創設すること (4)技術の開発と受け入れを加速させるために大衆教育を確立すること の4つだ。北西ヨーロッパの各国は、これらを共通の政策としてイギリスへキャッチアップしたし、日本やロシアなどの後発工業国もこの4条件をじょじょに整えた。
3つめの分岐は「ビッグプッシュ型工業化」。先進国へ追いつくためにはジャンプが必要だ。それは製鉄所、発電所、自動車工場、都市等を同時に建設するという荒技を意味する。ソビエト、日本、そして台湾・韓国・近年の中国はそれぞれ独自のやりかたで、これらの計画をたて、実現を成し遂げた。
著者の説明はジャレッド・ダイアモンド的な娯楽読み物とちがって、学問の香りがする謙虚なものだ。わかりやすくはあるが、突飛な思いつきではない。そこがいいという人もいるし、結局どうなんだという人もいると思うが、自分にはたいそう相性がよかった。 -
世界経済の格差の原因を世界史なかに位置づけて説明した内容。
タイトルが大仰だけど原題はグローバル経済史なんだが全て網羅してない・・。
アフリカはあるけど最貧国の話しをするならバングラデシュは?幸せの国ブータンは?高福祉の北欧は?記述なし。なによりごっそりアラブ世界がないんですけど・・。まさかオイルマネーとイスラム教で全て説明できるわけじゃないよね?書く気がないのか書けないのか関心がないのか知らんがこれってどうなんでしょう?
英国で産業革命が起きた理由はいろいろあって、まず地理的条件(豊富な石炭)。大航海時代からの帝国主義と植民地経営の成功。税の徴収のし易さ(国家の介入)。都市化と農業革命によるの食料生産性の上昇。これらがイギリスに「高賃金と割安なエネルギー」をもたらした。
「高賃金と割安なエネルギー」ってのが英国で産業革命が起きた大きな理由だ。割安な資本を使って割高な労働力を節約する。そのために機械化する。機械化へのインセンティブが→技術革新→産業革命につながた。(だってさ)賃金と資本価格・エネルギー価格が違う場合、割安なエネルギーと資本を使って、割高な労働を節約するような技術を採用することによってイギリスの企業は利益を上げることできる。これが経済成長の鍵ってわけ。
こうした経済成長のモデルはキャッチアップのする国にはありがたい。他に主に標準的な発展戦略は次の4つ。
1) 内国関税の撤廃による国内統一市場をつくること。
2)対外関税を設け、幼稚産業を保護する。
3)通貨安定をさせ銀行の創設。
4)大衆教育の促進。
こうした発展戦略を用いて、西ヨーロッパと北米アメリカがイギリスに続いた。
ただよく分からないのが、イギリスの政治体制には経済成長を促進する特徴が多くあったのか否か。フランスの2倍の税を徴収し、国民所得に占める割合でみても、より多く支出していたらしいんだけど、ここが不明。
国家の介入が経済成長を促進するのか?‘税の支出が経済成長を促進したかどうか議論の分かれるところである’と曖昧な書き方をしているのでよく分からない。
集めた税を軍事費(特に海軍)に使うなら、結果として帝国の領土を拡大し商業を促進するために用いることができた、と解釈できる。つまり帝国主義、植民地経営の成功が高賃金経済を支え、高賃金によって労働節約的な技術革新が誘発され、その結果産業革命が起こり英国に経済成長がもたらされたと、すんなり説明ができるのだが「議論のわかれるところである・・」と書かれてもねぇ。。税の徴収のし易さ(国家の介入)は経済成長のための必要条件の一つ、と考えればいいのかな。 -
訳者によると、高校生から大学1、2年生に読んでもらえるような訳文を目指したらしい。元々もオックスフォード大学の入門シリーズの1冊らしい。そのわりには難しかった。
結局、言いたいことは、人件費が安かったら、高い機械を買うなど設備投資をしようと思わないから、いつまでも成長できないということかな?
1820年の一人当たりGDPと2008年の1820年に対する成長倍率をグラフにするときれいな直線になる。つまり1820年に豊かだった国ほど、その後の成長も大きかったということ。その顕著な例外は、日本、台湾、韓国。1820年の一人当たりGDPってどうやって測ったのか、記録が残っているのか、言語も違うし正確性も劣るだろうし、とても興味がわいた。 -
GDPの低い国はいつまでも貧困が続く。世界中でも、このメカニズムか普遍的なものらしい。
-
賃金が高くて資本(石炭)が安いからこそ、人的資本を効率化する意味があり、イギリスにおける産業革命に繋がったという見解には納得。
過去はそうだった。未来はどうか。
この理屈だと生産革命は先進国にしか起こし得ない。
もう少し考えたい。 -
経済学的な観点から、豊かな国と貧しい国ができた歴史的な経緯を分析。労働力のコストや、資源へのアクセス…といった視点はなるほどと思わせるが、読み物としての面白さでこのテーマとなると、やはりジャレド・ダイアモンドがはるかに上。
-
主張は一貫していて読みやすい。ヨーロッパ史観が排しきれていないように思えるものの、なぜアフリカが低成長のままか、など知りたかった&知るべきことが書かれていて満足。コンパクトにまとまっていて大学生とかが読むといいんじゃないかな。
まとめた
http://bukupe.com/summary/8334